不妊症/人工授精・体外受精・顕微授精

人工授精の方法・確率・費用

人工授精(AIH、AID)を選択するケース、メリット、デメリット、方法、タイミング、副作用、合併症、成功率を上げる方法など、人工授精に関する基礎知識をまとめました。体外受精との違いについても、併せて解説します。

執筆者:池上 文尋

人工授精とは

精子ラボでチェックされます

精子の状態は、ラボでチェックされます

人工授精とは、精子を子宮内に直接注入し、卵子と精子が出会う確率を高める不妊治療法の一つ。子宮内に注入された精子は自力で卵管内へ移動し、排卵後に卵管内に取り込まれた卵子と自然に出会います。よって、名前には「人工」と冠しているものの、極めて自然妊娠に近い形の治療法と言えます。

治療に用いる精子は男性から採取した後、チューブのような注入器具を用いて子宮内に注入します。 以前は採取した精液をそのまま注入していましたが、現在では精液を遠心分離などによって精製し、活性の高い精子を選別するなどし、効率向上と副作用の低減を図っています。

人工授精を選択するケース

人工授精は、以下のようなケースで選択される治療法です。
  • 精子の運動性や数に問題があり、自然妊娠に困難がある場合
  • 性交障害(インポテンツ)やセックスレスがある場合
  • 女性生殖器の狭窄や子宮頸管のトラブルなどによって精子の通過性に問題がある場合
  • 抗精子抗体が陽性である場合
  • 不妊の原因が不明な場合
いずれの場合も、卵管通過障害(卵管狭窄・閉塞)がないことが前提です。

人工授精のメリット

1. 比較的容易に出来る治療法であり、ある程度の妊娠率を確保できるので繰り返し治療しやすい
2. スピーディーに行え、ほとんど痛みのない治療である
3. 身体への負担が少ない

人工授精のデメリット

1. 自由診療なので保険は使えない
2. 排卵誘発剤を使う場合、多胎やOHSS(卵巣過剰刺激症候群)になりやすい

人工授精の分類

人工授精はAIHとAIDの2種類に分類されます。

■AIH(Artificial Insemination by Husband):配偶者間人工授精
不妊治療を受ける夫婦の男性の精巣内で、受精能力を持った精子がある程度作られていれば、それを使って人工授精を行うことができます。

この人工授精では、法律上婚姻している男女間で行われるため、人工授精を表すAIの後に「Husband(夫)」のHを付けた「AIH」という名前で呼ばれています。

■AID(Artificial Insemination by Donor):非配偶者間人工授精
精子は洗浄・活性化されて注入されます

精子は洗浄・活性化されて注入されます

日本では非配偶者間人工授精は、1948年に慶應大学病院で始まり、これまでに1万人以上の子供が生まれたと見られています。

子供を望む夫婦で不妊治療を受けた結果、男性が精子を作る能力のない無精子症や、正常な妊娠は不可能と判断される精子死滅症、無精液症、絶対精子減少症と診断された場合に受けられる治療法です。

精子は夫婦とは関係のない他人の精子を受精させて子供を作るため、AIの後に「Donor(提供者)」のDが付いた「AID」と呼ばれます。提供される精子は受精能力があるかどうかを検査されたものですが、夫婦でこの治療を望んだとしても、適用されるにはいくつかの厳しい条件をクリアする必要があります。

人工授精の方法

1. タイミング療法と同様、排卵の時期を調べます
超音波やLH検査薬にて排卵の時期を予測します。

2. 精液の採取
自宅、あるいはクリニックでマスタベーションにて精液を採取して頂きます。できればクリニックの方が妊娠率が高まります。自宅の場合はブラジャーの中や下着の中に入れ、体温に近い温度で持参する必要があります。温度が低くなると精子が死んでしまうからです。

3. 精液の調整
精液をそのまま子宮腔内に注入することはありません。通常、精子を濃縮し、運動が良好な精子を回収するために遠心分離し、精子洗浄培養液で洗浄します。この作業で精液に混じった細菌や赤血球や白血球も取り除くことができます。

4. 人工授精
上記の方法で処理した精液0.3mlを細くやわらかいチューブに入れ、子宮の内腔に注入します。注入に要する時間は1~2分間です。その間、痛みなどの苦痛は全くありません。

注入後、約30分安静にしていただいた後、帰宅します。それ以後の日常生活は全く普通でOKです。

人工授精のタイミング

人工授精は、排卵日前日、または当日に行います。排卵時には卵管膨大部で精子が待っている状態を作るため、AIHを行う前の日にセックスを奨励しているところもあります。

人工授精の妊娠率を上げるための工夫

人工授精は自然妊娠に近い治療法です

人工授精は自然妊娠に近い治療法です

人工授精は、自然の月経周期で行うより、排卵誘発剤を使った過排卵刺激法(一度に複数の卵胞を育てる方法)を併用すると妊娠率が上昇することがわかっています。


人工授精の副作用・合併症

■多胎妊娠
排卵誘発剤を使った過排卵刺激法を併用した場合、多胎率が上昇します。多胎妊娠は単胎妊娠に比べ医学的に合併症の頻度が高く(母児共に)、また、経済的に負担もかかり、社会的にも周産期医療現場が破綻している現状では、可能な限り避けるべき妊娠と考えます。

■卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
排卵誘発剤を使った過排卵刺激法により一度に多数の卵胞が発育する結果、卵巣が腫れたり腹水がたまったり、場合によっては血栓を生じたりすることがあります。

■出血
カテーテル挿入の刺激で人工授精後ごく少量の出血を認めることがあります。

■感染
まれに子宮や卵管、腹腔内に感染を誘発することがあります。よってクリニックによっては人工受精後、1~2日間の抗生剤投与を行うところもあります。

体外受精と人工授精の違い

言葉が似ているので体外受精と人工授精を間違える方が多いのですが、簡単にいうと下記にような違いがあります。

■人工授精
精子を洗浄・活性化し、女性の子宮内に注入する方法

■体外受精
男性からは精子、女性からは採卵によって卵子を取り出し、身体の外で受精・培養し、受精された卵子(胚)を子宮内に戻す方法

人工授精に関するまとめ・ガイドの私見

人工授精は費用面でも身体面でも負担が低く、選択しやすい治療法の一つと言えます。特に最近ではセックスレスやEDの方がこの治療法を選択されるケースが増えています。

妊娠率は5~25%ぐらいと、患者さんの状況や医療機関の方法の違いで成績にばらつきがあります。平均して10~15%ぐらいが一般的な成績だと思います。クリニックによっては1~2回ですぐに体外受精を勧めるところもありますが、確率的に考えて4~6回程度はチャレンジしても良いのかなと思います。

また、13~14回行っても妊娠率は下がらなかったという報告もあるので、6回人工授精をトライしたからといって、そこで諦める必要性はないと思います。

体外受精と体外受精のウエイティング期間に人工授精でチャレンジするというクリニックもありますので、うまく可能性を広げる選択肢を作っていただくとよいのかもしれません。
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