ストレス/恋愛・結婚生活・離婚問題のストレス

離婚で変わる?モラハラ夫からの脱出経験者の声

「モラハラ夫が怖い」「旦那さんから無視される」……夫婦間でもしばしば起こるモラル・ハラスメント。今回は夫婦間でモラハラ被害に遭われた方へのインタビューをお届けします。配偶者からのモラハラ被害で学んだこと、離婚という方法でのモラハラ脱出にあたり感じたことなどを率直に語っていただきました。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

夫からのモラハラ被害に悩み続けた日々……

ソファに座っている女性

モラハラをする人の特徴はなんなのでしょう

言葉や態度によって人間性を否定し、相手に極度の精神的苦痛を与える「モラルハラスメント」。実際に夫婦間でモラハラ被害に遭われた山本さん(仮名)へのインタビューをお伝えします。

山本さんは長年、夫からのモラハラ被害に悩みつづけました。現在では、その被害からも出し、2人のお子さんたちと共に充実した毎日を過ごしています。山本さんは夫からのモラハラを通じて学んだこと、脱出して乗り越えたことなどを率直に語ってくださいました。

配偶者が「モラハラ夫」だったと気づいたきっかけ

我が夫がモラハラをしかけてきたら、どうしますか?
我が夫がモラハラをしかけてきたら、どうしますか?
ガイド:山本さんはそもそも、ご主人とはどんなきっかけで出会われたのですか?

山本さん:お見合いだったせいもあるかもしれませんが、結婚前はあまり深いつきあいをしていませんでした。最初から結婚相手としてのおつきあいでしたので、燃えるような恋愛期間を過ごしたこともありませんでした。職業も堅くて収入も安定していたため、「愛し合う対象」というよりは「生活を共にする条件を備えた人」という感じでした。また、他の人から「ご主人、ハンサムね」とよく言われました。

ガイド:条件的には、うらやましがられるような結婚ですよね。

山本さん:夫は外ではとてもいい人でした。仕事もよくできますし、仲間からも上司からも信頼が厚いということでした。40度の熱があっても仕事に行くマジメな人です。よく気がつきますし、冠婚葬祭時の儀礼にとてもやかましい人でした。また、子供のPTAや行事には欠かさず出席し、率先して仕事をする、どこから見てもよいパパでした。

ガイド:ご家庭ではどんな様子だったのですか?

山本さん:外面はいいのに、家では一変します。不機嫌、無言、無視といった期間が、周期をおいてやってくるのです。普段は普通の人なのに突然こうしたことが始まるので、何が原因かこちらにはまったくわからないのです。最初は「私の何が悪かったのか教えて。直すから」と懇願していたのですが、無視されました。

ガイド:いつもご主人に都合のいい結論に導かれてしまうのですね?

山本さん:そうです。また、何かをしてほしいときに、「~しろ」とは言いません。私からするようにし向けるのです。たとえば夫が「新しいスーパーが開店したそうだ」と言えば、間髪入れず私は「行ってみましょうよ」と言わなければなりません。もし言わなければ無言、無視といったモラハラが始まるのです。そして行った結果が悪ければ「お前が行きたいと言うから行ったのにつまらなかった」と不機嫌になり、責任を押しつけるのです。

ガイド:どうしてご主人はモラハラをするような人物になってしまったのでしょう?

山本さん:義父の影響が大きいです。家庭環境の複雑だった義父は、母親の愛情に飢えていたようです。そのため人格が歪んでしまったらしく、義母にも子供にも相当つらくあたったようです。また非常にひがみっぽく、猜疑心の強い人でした。

ガイド:結婚前後に、ご主人の精神的な問題に気づく機会はなかったのでしょうか?

山本さん:今思えば、「ああ、そういえば」ということがいくつかあります。一番大きかったのは、結婚後に彼の友人に会ったとき、「結婚前、言っておこうと思っていたんだ。あいつと結婚したら大変なことになるよって。でも奥さんも気が強そうだから何とかやっていけるかなと思った」と言われたことですね。ごく身近な友人たちは、夫の問題がわかっていたようなんです。「機嫌が悪いとものすごく怖い」と言った人もいました。

ガイド:モラハラ夫からの被害に遭わないためには、やはり早めにその性質を見抜くことが大切ですよね。

山本さん:私のサイトの掲示板に来られる方にも、よく聞かれる質問です。見分けるコツについては、長年の「モラ夫研究」の結果、いくつかポイントを発見しました。

  • 異様に明るいが根は暗い
  • 自分の話を延々とする
  • ほめられると喜び、自慢話が続く
  • 知り合いに有名人やエライ人がいることを自慢する
  • 利害関係のある人への気遣いが細やかで、かいがいしい
  • 理屈っぽい「言葉の戦闘家」
  • ちょっとした瞬間にぞっとするほど冷たいものを感じる

ガイド:なるほど。でも、こうした態度にうすうす気づいていても、結婚してしまう人は多いですよね。

山本さん:最初はいい人だと思っても、付き合っていくうちに一度は、「あれ? こんな人だったかな」と気づくことがあると思うんです。でも、自分が結婚に前向きだったりすると、「私の勘違いかな? きっと彼のほうが正しいのだろう」などと、自分で自分を納得させてしまうことがあります。嫌な一面に目をつぶってしまうわけですね。でも、実はこれが一番いけないことなんです。

モラハラ夫から逃れるには離婚しかなかったのか

ガイド:長年、ご主人からのモラハラに苦しんでこられたわけですが、最終的に「離婚」でしかモラハラの被害から逃れる手段はなかったと思われたのは、どうしてでしょうか?

山本さん:私が受診した精神科の医師のすすめが大きかったです。先生には、「ご主人は人格が異常です。この人と20年間一緒に暮らし、正常な精神を持って私の前にいることは奇跡です」といわれました。そして「子供のためにもすぐに離れなさい」と。

いろいろな本を読んでも、モラハラ夫の人格が治る可能性は非常に低いと書いてありましたので決心がつきました。当時は別居しており、1年以上お互いに口もきいていませんでしたので、この状態から元に戻ることも不可能だろうと思いました。

ガイド:ご主人と離婚することには、罪悪感がありませんでしたか?

山本さん:もちろん、ありました。そもそも、夫も義父から受けた心の傷を癒しきれないモラハラの被害者なのです。しかし、子供たちに平和で普通の生活を与えるためには、夫から離れるしかないのです。子供たちを守らなければならないし、私自身も、おびえて暮らす生活はもう耐えられなかったのですから。

ガイド:離婚後、お子さんを育てながら生活を軌道に乗せるまでには、不安やご苦労でいっぱいだったことと思います。どのように乗り越えられましたか?

山本さん:夫との暮らしのなかで、常に離婚のことは頭の中にありましたが、本当に離婚をするつもりはほとんどありませんでしたし、夫の機嫌がよいときには、離婚の準備をしていることが罪悪感になったりもしました。

離婚に際しては、私と子供が安心して暮らせる生活基盤、環境をつくるために「調停」の場にのせました。モラ夫は大嘘つきですから、法的根拠を持ったものが絶対に必要なのです。また、知り合いの弁護士の助言を受け、税理士の友達から知恵を借り、ネットを調べまくり作戦を練りに練りました。前述の精神科の先生からも指導が入りました。また、味方になってくれそうな人には全員事実を伝え、特に父からは全面的に信頼してもらい、手助けをしてもらいました。

ガイド:離婚されてからも、元ご主人からのいやがらせなどはありましたか? どのように対応されていましたか?

山本さん:養育費の支払に関しては、支払いを渋ることが今でもあります。決められた額の一部しか支払わなかったときには、「決められた額を支払わなければ、裁判所から給与差し押さえの文書が貴職場へ送付されますのでご注意下さい」とメールしたら、残りを振り込んできました。このメールを出してからは、支払いが遅くなることがなくなりました。調停で取り決めをしておいて、本当によかったと思います。しかし、脅迫メールや電話、ストーカーのような追跡はありませんので、まだまだ幸せな方だと思います。

ガイド:実際に夫からのモラハラにあっていても、なかなか抜け出せない人のほうが多いと思います。どうすればよいのでしょうか?

山本さん:モラハラ夫の支配から抜け出すには、自分を客観的に見つめることが必要だと思います。自分はどうしたいのかを自分で考えて、結論を出すこと。他人の意見に引っ張られて離婚などを決めたりすると、あとで「あの人が離婚なんて言わなければなんとかなったのでは?」と後悔が大きくなることもあります。そして、離婚を考えるなら、まず準備を周到にすること。離婚は準備さえ整えば、不安は半分になります。

ガイド:モラハラの加害者、被害者ともに少なくするために必要なのは、どんなことだと思いますか?

山本さん:残念ですが、モラハラ加害者自体をなくすのは難しいことだと思います。私たちにできるのは、被害者にならないこと。自己自立している人は、被害者になりにくい傾向にあるのです。モラハラというのは、究極の“弱い者いじめ”です。被害者には共依存の傾向をもつ方も多く、まずこの問題をどうにかしなければいけないこともあります。自己主張が苦手な人は「アサーショントレーニング」なども有効かと思います。

また「DV法」が改正されたことにより、精神的暴力もDVの定義として認められるようになりました。私が勤めた頃、会社の男性が女性の体にさわったり、猥談をしたりするのは当たり前のことでしたが、現在では(表面的には)見られなくなりました。モラハラも社会的認知が進めば、被害者が被害者であることを隠さなくてもいいようになるでしょう。

ガイド:モラハラという経験を経て、山本さんはこれからの人生をどう生きようと思いましたか?

山本さん:モラハラに限らず、大きな病気や苦難を乗り越えた方は、「このことがあったから私は優しくなれた」と異口同音に言います。私もモラハラという被害を経験する前は、「淘汰は自然の摂理」と平気で口にするような強気の人間でしたが、当時の自分を思うと赤面の至りです。

モラハラからの脱出、またその後の人生にあたって、たくさんの方たちからいただいた熱い厚意を、どういう形になるかわかりませんが、いずれは私が誰かにお返ししたいと思います。(本文中表記は2005年取材時のもの)

■参考
山本さん主催のモラハラ関連サイト:モラル・ハラスメント被害者同盟

モラル・ハラスメント被害者同盟による書籍
 
『家庭モラルハラスメント』(講談社+α新書)
家庭モラル・ハラスメント』(講談社+α新書)
夫からの度重なる精神的暴力を受け、離婚調停を戦い、母子共に自立と自由を獲得した著者のモラハラ脱出までの軌跡。家庭内で起こるモラハラが現実の会話を元に展開された、説得力のある実録モラハラ書。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
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