文章:吉國 友和(前任ガイド)
6月8日に東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件の中、携帯電話のカメラで現場を撮影する野次馬もいる一方、居合わせた医療従事者だけでなく一般市民による懸命かつ高度な救助活動が行われたのが唯一の救いでした。このような多数の死傷者が出る事件や事故、あるいは災害の場では、救助する人の優先順位を迅速に決定する必要があります。一般の方による初期治療の重要性が改めて認識されることになります。今回は、このような事故・災害現場での対策についてご説明します。
事件を医療の視点から振り返る
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| いざと言う時に頼りになる救急車・救急隊員。大規模な事故や災害では、救助できる人数が限られてしまいます |
今回の事件では、わずか5分間で17人もの死傷者を出し、災害以外の事件としては初めて複数のDMAT(災害医療支援チーム)が出動しました。現場に最初のチームが到着したのは事件発生から12分後。これまでのDMATの平均到着時間は20分を超えていたので、ずいぶんと早い到着でした。しかし出動した4チームのうち、最後に到着したチームは要請を受けてから30分後、日々研鑽を積んだチームであっても道路事情などが到着時間を左右することがあるのです。
今回は人で賑わう繁華街での事件であったため救急車のルートも確保されましたが、地震のような災害は場所を選ぶことなく発生します。そうした状況で、仮に要救助者が10名いるときに5名しか救急車に乗ることができないという場合もあり得ます。非常に難しい問題ですが、優先順位を決めることを、トリアージ(選別)と呼びます。体力の衰えた高齢者が優先と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、実は必ずしもそうではないのです。
究極の選択 トリアージ
トリアージとはフランス語の「選別(triage)」という言葉が語源で、日本語ではあまり適当な言葉はないかもしれません。簡単に言えば、一箇所に複数の要救助者が存在する場合、軽症(軽傷)から重症(重傷)の3段階、更に死亡ないしそれに順じた救命不能状態と考えられる1段階、合計4段階に速やかに要救助者を見分けるというものです。
要救助者には受傷の度合いによってトリアージ・タグと呼ばれる4色のカードから、不要な部分(色)を切り取り傷病者の右手首に取り付けられます。それぞれ以下のような意味があります。
- 黒……死亡ないし救命不可能
- 赤……生命にかかわる重篤な状態ではあるが救命の可能性がある
- 黄……生命に関わる重篤な状態ではないが、早期に治療が必要
- 緑……軽症で救急搬送の必要がない
トリアージは原則として直接治療に関与しない医療従事者が救急搬送可能な人数などを踏まえた上で判断します。一度で絶対的な判断をすることはできませんし、状態が急変することもありますので、状態を経過観察して救急搬送直前までトリアージは繰り返されることになります。
ただ、黒色のトリアージ・タグをつけるということは、いわば「助からないのなら割り切ること。まずは助かる見込みのある人から救助に当たれ!」ということです。判断する側も人間ですから、「助からない」と咄嗟(とっさ)に判断するのがいかに難しいことであるのか、容易にご理解いただけると思います。切羽詰まった状況下の判断によってその人だけでなく、その家族の人生をも左右することになりますから、トリアージには的確な判断力とともに勇気も要求されるのです。
次のページでは事件・事故に遭遇したときの対処法をご紹介します。