食と健康/伝統食・粗食・素食

古くて新しい栄養食品 雑穀

雑穀は、現代人にとって馴染みの少ない食品ですが、実ははるか昔から日本人が食べてきた主食。栄養価が高く、過酷な環境条件でも育つ生命力に溢れ、「未来の栄養食品」として注目されています。

南 恵子

執筆者:南 恵子

NR・サプリメントアドバイザー / 食と健康ガイド

雑穀は主食のルーツ

雑穀とは、アワ、キビ、ヒエなどのイネ科の穀物の総称(豆類を含む場合もある)。英語では、ミレット(millet)と呼ばれています。「五穀豊穣」という言葉があるように、日本人の先祖は米以外にも多くの雑穀を食べていました。縄文時代前期(今から約5千年前)には、日本でもアワ、キビ、ヒエ、ハト麦、モロコシ、シコクビエなどが栽培され、稲作の前には雑穀栽培されていたと推定されています。

東南アジアやインド、アフガニスタンなどでは、現在でもさまざまな雑穀が食べられています。現在の日本人の主食は「米」ですが、昔は日本人すべてが十分に食べられるほどの生産量はありませんでした。

江戸時代、農民が作った米は年貢として納められ、それを都市部の人や上流階級の人たちが食べていたので、農民には米がまわらず、やむをえず雑穀を食べていたのです。

しかもそれは、なんと5~60年前(第二次大戦前)の昭和20年頃まで一般的だったそうです(農民は全人口の7割りを占めていた)。「米」は豊かさの象徴であり、あこがれのごちそう。戦後豊かになるととも、白米が主食に落ち着いたのです。

小鳥の餌から除去食に変化した雑穀

雑穀は、第二次大戦後徐々に生産量が激減し続け、用途はほとんど小鳥の餌などの飼料でした。ところが高度経済成長後、アトピーの子どもが増えるにつれ、米や麦を食べられない子どもたちの代替食として、雑穀は注目を浴びるようになりました。

私の娘もアトピーがひどく、授乳中私もアワ、キビを白米に混ぜて食べていました(今は時々玄米に混ぜる)。私はなんとも思っていなかったのですが、それを聞いた両親が「かわいそうに……」と言いました。

それほど、雑穀とは「貧しい」「おいしくない」というマイナスイメージが強いものだったのでしょう。また雑穀を買うにも、遠くの自然食品店に行けない時は、スーパーマーケットのペットコーナーで、小鳥の餌であるアワを買っていたほどで、今ほど楽に買えるものではありませんでした。

雑穀の栄養価の高さに注目

アトピーやアレルギーの人の除去食という限られた食品としてだけでなく、その栄養価が高いことから、近年は雑穀が注目され、炊飯に混ぜて食べる家庭も増えています。

雑穀の栄養面でのすばらしさは、ビタミン各種、カルシウムや亜鉛、鉄分などのミネラルや食物繊維を豊富に含むなど、白米をはるかに凌ぐ栄養価があります。また黒米は抗酸化作用の強いアントシアニンを含みます。

白米に混ぜて炊くと、カラフルになり、見た目も華やかになりますし、弾力やプチプチ感などの食感も楽しめます。自然食を実践する人たちやレストランなどでは、この栄養やおいしさを活かし、主食だけでなく、ハンバーグ風やシチュー、コロッケなど新しいレシピを開発、提供し始めています。たとえば、東京の「未来食アトリエ・風」は、雑穀をアレンジした料理を提供し、20歳代の女性を中心に幅広い年齢のお客様が訪れるなど評判になっています。

国産雑穀が増え難い理由

雑穀は、稲作ができないような山間部などの土地でも容易に作ることができ、米がとれないほどの冷害や干ばつにも非常に強く、病害虫にも強いので無農薬栽培ができ、安定した収穫量が見込め、しかも長期保存ができます。岩手県など特産品として積極的に栽培に取り組む地域もありますが、まだまだ国産の雑穀の生産量は多くありません。

というのも生産者側にとってはメリットが大きいともいえないようです。
あれほど細かいアワやヒエを、ゴミを混ぜずに収穫するのは本当にたいへんな作業で、機械で効率化を図るのも難しく、そのたいへんな作業の割には価格が抑えられ、なかなか栽培農家も増えないのが現状です。

食文化の継承、健康増進にも役立つ雑穀を食べ、伝えていくことは、私たち消費者のメリットばかり押し付けても続かないということも考えなければならないと思います。

代表的な雑穀 

■アワ
祖先は、エノコログサ、俗称ねこじゃらしです。アワは、穀物中でもっとも小さい粒。赤アワ、黄アワがあり、うるち種ともち種が栽培されています。昔はアワでお酒も造られました。 甘みが強く、クセがほとんどないので、お菓子にも向いています。モチアワはスープやコロッケなどに利用できます。

■キビ
生育期間が短く、乾燥に強くて荒れ地でも育つくらい強い雑穀。穂は緑色で、実は淡黄色。粒の大きさはアワより少し大きめ。うるち種ともち種があります。もちキビは、モチモチとした食感で、おはぎや団子向き。

■ヒエ
祖先は、イヌビエ。穂は淡緑または褐紫色。三角形に近く細い実。うるち種のみ。さっぱりとくせのない味。炊きあがりはふわふわで、冷めるとぽろぽろになり味が落ちます。炊いたら早めに食べるのがポイント。ヒエからみそやしょうゆ、焼酎なども作られていました。



■大麦 
うるち種ともち種があります。精麦し、縦二つ割りにした丸麦、加熱して柔らかくした後、ローラーで圧縮した押し麦があります。実は縦長で大きめ、片側に黒い溝があります。麦トロと言えば大麦。炊くと歯ごたえがあります。食物繊維が豊富です。


■はと麦
祖先はジュズダマ。もち種が多く、うるち種はめったにありません。
真ん中に茶色の大きな溝があるのが特徴。中国では古くから漢方や薬膳などに使われ、楊貴妃も美容食として愛用していたといわれて言われています。お菓子やパン、お茶としても利用されます。

■アマランサス 
インカ帝国時代の重要な主食。たんぱく質にリジンを多く含み、カルシウムや鉄などのミネラルと食物繊維が多く含まれ、アメリカ航空宇宙局が21世紀の栄養食品として注目しています。プチプチとした食感で、少し苦みがあります。

その他、そば米、古代米の黒・赤米やキヌアなどもあります。
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