マンション管理/マンション管理・購入後の基礎知識と注意点

マンション管理運営に影を落とす財政問題

日本がタタミからイスへと“住文化”を変える契機となったのがマンション。今では主要な居住形態として定着しましたが、一方で課題も山積です。そこで「マンション会計」に焦点を絞り、解決策を紹介します。

平賀 功一

執筆者:平賀 功一

賢いマンション暮らしガイド

様々な課題を抱える「マンション」という居住形態


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10人に1人がマンションで暮らす
現在、およそ1200万人が分譲マンションに住んでいると言われています。国民の10人に1人が居住する計算です。ひと昔前までは、庭付き一戸建てを買う前の“仮住まい”と位置付けられていましたが、今日では、大都市圏を中心に「終の棲家(ついのすみか)」として認知されるようになりました。

団塊の世代が集合住宅での生活を定着させたことで、団塊ジュニアにとっては、マンション生活が当たり前の選択肢となっていることも、こうした傾向を後押ししています。また最近では、郊外の一戸建てから都心一等地の高層マンションへUターンする高齢者も散見されるようになり、分譲マンションは日本人の生活様式に溶け込み、主要な居住形態となりました。

ところが、ひとつ同じ屋根の下で生活するマンション暮らしには、複雑な権利関係、区分所有者間の意思決定の難しさなど、多くの課題も残されています。ペット飼育や上下階の騒音に代表される「居住者間のマナー」は終わりの見えない永遠の課題となり、また、耐震強度偽装問題を典型例とする「構造問題(耐震性)」が新たな懸念材料として浮上してきました。そして、修繕積立金の不足や管理費の無駄遣いといった「マンション管理会計」も見過ごすわけにはいきません。

近頃は、マンション管理費等の削減を手伝うコンサルタント業者が台頭したことで、管理費等の“適正金額”に関心を示す居住者も増えましたが、その割合は決して多くなく、支払った管理費が何に使われているか使途を把握していることは稀(まれ)でしょう。マンション居住者にとって「管理会計」は最も重要でありながら、最も不得手(=無関心)な分野なのです。

そこで、マンション管理を“マネープラン”の側面から考えられるよう、マンション管理組合のマネープランと題して「賢いマンション暮らし」を目指す読者の皆さまへシリーズでお届けいたします。新米役員の方はもとより、これからマンション購入を予定されている方にとっても役に立ててもらうのがねらいです。今回、シリーズ第一回目は「マンション管理運営に影を落とす財政問題」についてです。

日本のマンションの50%は大規模修繕工事の資金が不足


「私の感覚では、日本のマンションの50%はすでに財政赤字で大規模修繕工事の資金が不足しており、さらに、残りの40%も今後、20年以内に赤字になると見ています。つまり、9割(50%+40%)のマンションが将来的には赤字化するのです。慌てて修繕積立金を値上げすることで、赤字を補填(ほてん)しようとしているマンションも多いでしょう。これは、分譲当初に決められた修繕積立金の金額設定に問題があるからです」と分析するのは、管理費削減などのコンサルタントを行なう(株)シーアイピーの須藤桂一社長。同社は大規模修繕工事費の削減を中心に、管理費等の見直しまで幅広く行なうマンション管理にかかわるコストダウン支援のパイオニア的存在で、数多くの実績を通じて、管理組合が抱える様々な問題点を垣間見ています。

そうした経験に基づき、須藤氏はさらに「デベロッパー(売主)は、マンションを長く快適に使うために必要な資金である修繕積立金を意図的に低く設定するのが通常」と、“企業の論理”が優先されている現状を指摘しています。「デベロッパーはマンションを確実に売り切るために、分譲価格とともにランニングコスト(入居後にかかる維持管理コスト)にも神経をとがらせます。競合するライバル物件より少しでもランニングコストを抑えたいと考えるのです」

購入者には住宅ローン返済以外に管理費や修繕積立金などの負担もあります。少しでも(見た目に)「買いやすく」=「支払いやすく」するための方策として、「すぐに使うお金」ではない修繕積立金が槍玉(やりだま)に挙がり、売り主は本来の必要額にくらべ毎月の積立金額を安価に設定する ―― というわけです。

管理費等の金額は、一体、誰が決めるのか?


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管理会社依存が悪循環の原因!
確かに、管理費や修繕積立金の金額を最終的に決定できる権限は組合員(区分所有者)だけが有するので、受託予定の管理会社が提示する管理費等の“予定額”に固執することはありません。しかし、「管理費や積立金が高い(安い)ので購入を見合わせた」という例は聞いたこともなく、また、デベロッパーの系列管理会社が管理業務を受託することがほとんどのため、こうした売り主の息がかかることになるのでしょう。

と同時に、「入居者も、「鉄筋コンクリートは頑丈で木造に比べ劣化しない」「毎月、管理費等を支払っているのだから、管理会社が補修してくれるはず」と間違った知識を持ち、安心しきってしまうために“適正金額”に対する関心が生まれない(同氏)」ことも問題です。冒頭で、修繕積立金が慢性的に不足しがちであることが指摘されましたが、デベロッパーによる“売らんがため”の金額操作と、購入者自身の無関心が絡み合い、結果として、悪循環を形成していることが主因であると言えそうです。

財政赤字(修繕積立金が足りなくなる)になると、管理組合は少しでも余分な支出を避けようと、日常補修をなるべく節約するようになり、必要最低限の出費で済ませようと考えます。あるいは、補修時期を必要以上に延ばすこともあり、コスト最優先による安価な工事を発注することで修繕内容が伴わず、「安かろう悪かろう」という結末を迎えることもあり得るでしょう。

適時・適所に修繕工事が実施されないことは、建物の劣化や美観の低下を意味し、最終的には自宅マンションの「資産価値」低下に直結することに誰もが気付くべきなのです。その第一歩として、管理会社主導ではなく管理組合が主体となって、管理費等の適正金額を探ることが重要になるのです。

そこで次回からは、これらの問題をどう解決すべきか?具体的な対応策に言及していきたいと考えます。どうぞ、お楽しみに!!


【シリーズ】管理組合のマネープラン
1.マンション管理運営に影を落とす財政問題(本コラム)
2.企業の「思惑」で決まる修繕積立金の“裏”事情
3.「無知・無関心」による管理費の“不正”流用
4.修繕計画を自社の「売上表」と見る管理会社
5.管理組合と管理会社の「格差」を埋めろ!!
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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