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周辺事態法ってなんだろう

北朝鮮制裁問題でクローズアップされてきた「周辺事態法」。なぜこのような法律が出来たのか? 周辺事態っていったい何? 問題はないの? わかりやすく解説してみました。

執筆者:辻 雅之

(2006.10.20)

「周辺事態」という言葉はいったい何を指すのでしょうか。そしてなぜ、このような法律が生まれたのでしょうか。周辺事態とは何か、制定された歴史から、その内容についての争点・論点をまとめてみました。

1ページ目 【周辺事態法が制定されるまでの動き】
2ページ目 【あいまいな「周辺事態」の定義とは?】
3ページ目 【周辺事態法についての論点・争点】

【周辺事態法が制定されるまでの動き】

「安保再定義」→周辺事態法制定

安保再定義
冷戦のあとも安保体制を維持するため、安保再定義が行われ、それに基づき新ガイドラインや周辺事態法が作られていった。
周辺事態法は、90年代なかばにおこなわれた「日米安保再定義」に基づいて作成された「新ガイドライン」に対応する法律として、制定されたものです。

日米安保条約は1951年、日本の独立を決めたサンフランシスコ平和条約と同じ日に調印されました。これによってアメリカ軍の独立後の日本駐留が決まったわけです。

1960年、岸内閣はこれを大きく改定しました。それにより、日米の相互防衛などが明確に規定され、日本をともに防衛する条約として、日米安保条約は機能することになりました。

さて、なぜ日米安保が締結されたのか。それはもちろん米ソ冷戦でした。

ソ連、そして中国、北朝鮮と東アジアの共産化が進むなか、アメリカは日本の共産化を断固阻止しなければならないと考えていました。また、共産諸国に対するアジアの基地として、日本を利用したいとも考えていました。

こうして、米軍による共産諸国からの日本の防衛と、基地利用を可能にするのが日米安保だったのです。日米安保はそういった意味で冷戦が産んだ条約でした。

1980年代終わりに冷戦は終結しましたが、それでもアメリカはアジア、ひいては太平洋において日米安保を機能させたいと考えていました。90年代始めにおきた2つのできごとは、その必要性をアメリカに痛感させました。

こうして、日米は協議し、日米安保を単なる日本領土の防衛のためだけの条約ではなく、アジア・太平洋の平和のための条約と定義し直すことにしたのです。これが「安保再定義」ということです。

これに基づき、日本がアメリカに従来よりも幅広い協力をすることが求められるようになりました。こうして作られたのが新ガイドラインであり、周辺事態法だったのです。

第1次北朝鮮核危機

さて、安保再定義に大きな影響を与えた2つのできごととは何だったのでしょう。その1つが、90年代始めの「第1次北朝鮮核危機」でした。

冷戦の崩壊は、北朝鮮の「キム(金)体制」に大きな不安を与えました。ソ連(ロシア)や中国が韓国と国交を結んでいくなか、北朝鮮も開放政策をとらなければ孤立化をするおそれがでてきました。しかし、北朝鮮の開放化は王朝的なキム体制を破壊する危険性もあります。

こうして、北朝鮮は開放政策を選択せず、代わりに核開発を行い、孤立に備えようとしました。

93年、北朝鮮はNPT(核拡散防止条約)脱退を宣言、核兵器の保有をすることを内外に向けて強くアピールしました。こうして、最初の北朝鮮核危機が勃発しました。

これは結局、94年の米朝枠組合意によって、北朝鮮への重油の供給など宥和的な政策を行うことによって終結しました。しかし、これはアメリカに、東アジアの不安定さを思い知らせる大きなできごととなったのです。

台湾海峡ミサイル危機

北朝鮮・台湾
北朝鮮や台湾周辺で起こった「危機」はアメリカに日米安保の重要性を再認識させた(衛星写真:NASA)
そして94年、今度は台湾海峡に大きなクライシスが勃発しました。

台湾で当時の李登輝総統が独立指向を明確にしていくなか、中国は台湾海峡で大規模なミサイル演習を行いました。事実上の台湾に対する軍事的威嚇でした。

アメリカは空母2隻を台湾海峡に派遣し、中国の行為を止めることにとりあえずは成功しました。しかし、台湾をめぐって軍事衝突が起こる危険性は、現実味をもってアメリカに伝えられました。

日本では、このことはあまり大きな関心を持って報道されませんでした。ちょうど自民党一党支配が終わり、大規模な政界再編が進んでいたからです。しかし官僚レベルでは、安保再定義にむけた研究が着々と行われていました。

そんななか、日本国内でもまた安保のあり方を根本から見つめ直す重大事件がおこりました。次のページでみていきましょう。
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