文章:辻 雅之(All About「よくわかる政治」旧ガイド)
(2006.07.11)
北朝鮮の核実験によって浮上してきた「第7章決議」とはいったい何? 拘束力が強い、中国は慎重とかいろいろいわれていますが……緊急に説明してみます。
★
「北朝鮮の政治情勢」もチェック!
なぜ北朝鮮は核実験を行ったのですか?
 |
| 恐るべき核兵器が北朝鮮という国家にも誕生したのだろうか(写真はアメリカ・エネルギー省サイトから) |
いろいろなことがいわれていますが、一番有力なのが「アメリカを1対1で行う直接対話の場に引き出す」ためのデモンストレーション、という見方が有力です。
北朝鮮は、1994年の「米朝枠組合意」の再現を目指しているといわれます。93~94年の時期も、北朝鮮は核兵器の開発をちらつかせてアメリカの譲歩を引き出し、重油の提供などを受けました。
経済が困窮するなか、「2匹目のどじょう」を狙いたい、というのが北朝鮮の本音のように思われます。
7月のテポドン・ノドンミサイルの発射の狙いもそこにあったといわれます。しかしアメリカのブッシュ政権は譲歩を迫られることを恐れてか、北朝鮮との直接対話に応じようとしません(「6カ国協議」なら応じるとしています)。
北朝鮮はアメリカにむけて、さらに強いメッセージを送るために「核実験」というカードをきったのだと思われます。
なぜ「地下核実験」だったのですか?
1963年に地下核実験以外の核爆発を禁止する「部分的核実験禁止条約(PTBT)」ができてから、世界の核実験は地下核実験が主力となり、現在では大気中などでの核実験は行われていません。これが1点です。
2点目として、大気中つまり地上や海洋上での核実験は放射能汚染のおそれが強いということです。1回の実験でどれだけの汚染があるかという科学的なことはわからないことも多いですが、ひんぱんに核実験をしていた地域では今もなお強い残留放射能が存在するところもあるといいます。
3点目として、地下核実験の技術があることを見せつけるという狙いもあるといわれています。大掛かりな準備が必要な地下核実験の成功にはそれなりの軍事的技術が要求されるといわれますし、費用もかかります。それだけの力があることを見せつけるパフォーマンスとして、地下核実験を選んだということもあるかもしれません。
今回の核兵器は「プルトニウム型」といわれますが?
 |
| 長崎に投下された原爆と同じ形のもの。この「プルトニウム型」が北朝鮮でも採用されている(写真はアメリカ・国防総省サイトから) |
広島に投下されたウラン型核兵器に対して、長崎に投下されたものを一般にプルトニウム型といいます。
天然ウランにはエネルギーとなるU-235がおよそ0.7%しか含まれていないので、濃縮を行う必要性があります。しかし、プルトニウムは自然中にはほとんどないものの、原子炉内でウランが中性子を吸収することによってできるので、濃縮の技術が必要ありません。
その他、エネルギー効率の問題もあって、ほとんどの国はこのプルトニウム型の核兵器を保有するに至っています。
問題は起爆にあります。プルトニウムを均等に圧縮して高密度にし、核爆発をさせる構造になっているので、精密な設計が必要となります。ゆえに、核実験の完全な成功が欠かせない爆弾でもあるのです。
「第7章決議」とは何ですか?
国連憲章では第6章で紛争の平和的解決をうたっていますが、これが不調な場合、第7章に基づいて平和に対する脅威に対する強制措置を行うことができます。
国連安全保障理事会(安保理)が、この第7章に基づいて決議を行い、関係国への暫定措置の要請や経済制裁・武力制裁を行う法的根拠を与えます。この決議が「第7章決議」とよばれるものです。
安保理の「第7章決議」は、国連すべての加盟国を拘束します。一方、7月のミサイル騒動の時に出された「非難決議」は第7章に基づく決議ではありませんでした。
北朝鮮とのパイプをつなげておきたいと考える中国やロシアが、彼ら自身も拘束する「第7章決議」に反対するか、それとも国際世論を考えて賛成するかが大きな注目点となっています。
アメリカが行おうとする臨検って?
ここでいう臨検とは不審な船舶を政府機関が海洋上で取り調べることで、基本的には軍隊が行います。国連海洋法条約では、奴隷輸送の疑いのある船、無国籍船などに対しての臨検を認めています。
もちろん、安保理による制裁決議によって可能にすることもできます。また、そうでなくてもアメリカは独自の判断で臨検を行うかもしれないという見方もあります。しかし、中国やロシアの沿岸で独自判断による臨検は難しいのではないかという見方も有力です。
安保理決議で臨検が可能になった場合、日本もまた臨検に参加するかという問題が生じます。臨検だけであれば問題はないでしょうが、その後発生しかねない不審船との衝突、これによって「武力行使」ということになれば、国内で大きな議論になることも予想されなくはありません。
アメリカと北朝鮮との軍事衝突はある?
 |
| いまだイラクから撤兵できないアメリカに、北朝鮮を叩く余裕はない(写真はアメリカ国軍公式サイトより) |
可能性は低いでしょう。
イラクで足をとられているアメリカが、50~70万人の兵力が必要といわれる北朝鮮侵攻にまで手を出す余力はありません。部分的な空爆の可能性がありますが、核兵器開発能力を無力化するだけのことができないと、かえって北朝鮮になにかの口実を与えかねない結果になりかねません。
しかし、アメリカは軍による威嚇を、臨検や海上封鎖などができる権限を安保理決議に与えて、実行しようとする可能性があります。このまま何もしなければ北朝鮮のペースに巻き込まれるだけだからです。
ここで、偶発的な衝突が、大規模な戦闘にならないとも限りませんが……このあたり、すべては北朝鮮の今後の出方次第、といえそうです。
★
「北朝鮮の政治情勢」もチェック!