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BSEとノーベル賞の意外な関係

行政の混乱が消費者の不安感を増幅させている牛海綿状脳症(BSE)問題は、実は、今年のノーベル経済学賞と関係が大ありです。ノーベル経済学賞とBSE問題をわかりやすく解説します。

執筆者:石川 秀樹


■今年のノーベル経済学賞■

今年のノーベル経済学賞受賞は誰でしょう? あ!そういえば、日本人、名古屋大学の…、いいえ、それはノーベル「化学」賞の野依(のより)さんです。経済学は、ジョゼフ・スティグリッツ米コロンビア大教授(58)、ジョージ・アケロフ米カリフォルニア大バークレー校教授(61)、マイケル・スペンス米スタンフォード大教授(58)の米国人3氏です。

研究分野は「情報の経済学」です。情報が不完全だと経済はどうなるかということを分析したものです。具体的に、アケロフ先生の「レモンの原理」をご説明しましょう。なお、レモンとは、英語で傷物の中古品という意味です。果物のレモンとは関係ありませんので、念のため。

まず、中古車市場では、100万円の価値がある良質な中古車と50万円の価値しかない悪質な中古車が半数ずつあるとします。そして、売り手は中古車に乗っていたので品質がわかるが、買い手は品質がわからないとします。このように、片方は情報があるが、もう一方は情報がないことを「情報の非対称性」といいます。

このような状況では、買い手は品質がわからないまま中古車を買うことになります。100万円の価値の中古車と50万円の価値の中古車が半々なので、100万円と50万円の間に価格は決まるでしょう。たとえば、75万円に決まったとしましょう。

すると、100万円の価値がある良質な中古車を保有する人は75万円で売ると損しますので、売らなくなり、逆に、50万円の価値しかない悪質な中古車を保有する人は75万円で売れれば得しますので、どんどん売るようになります。その結果、市場には、50万円の価値しかない悪質な中古車しか出回らなくなります。

良い物が競争に勝って生き残るのが通常ですが、このように、情報が不完全であると、逆に、悪質なものしか市場に流通しなくなります。このような事態を「逆選択」といいます。

情報が完全であれば、良質な中古車の市場と悪質な中古車市場がそれぞれできます。しかし、情報の不完全(ここでは情報の非対称性)が原因で、逆選択によって良質な中古車市場はなくなるわけですから、良質な中古車を売りたい人や買いたい人は困ってしまいます。このように、情報が不完全であると経済に悪影響を与えてしまうのです。

以上のような情報の非対称性は、中古車に限らず、パソコンや家電製品でも起こります。売るメーカーは性能を良く知っていますが、買い手である消費者は性能を十分に把握できません。このようなとき、消費者は価格が高い製品は、高品質であっても品質がわかりませんから買わなくなってしまいます。

しかし、現実には、私たち消費者は高品質な製品も買っています。これは、品質保証契約があるからです。もし、10万円でパソコンを買って、家で空けてうまく作動しなければ、代わりの製品と交換できるのです。ですから、安心して、高価なパソコンを買うことができるのです。つまり、品質保証契約は、情報の非対称性を克服する機能を果たしているのです。


さて、牛海綿状脳症(BSE)問題ですが…
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