穴あきバケツとたれが立役者
遠野のジンギスカン
お肉は焼きすぎ厳禁!脂で野菜を揚げるように焼くのがまた美味。日本酒でジンギスカンを食べる地元のお年寄りも少なくないそう
遠野の郷土料理といえばひっつみ(すいとん)などが有名ですが、市民の普段着ご当地グルメといえばジンギスカン。実は、遠野で焼肉といえばジンギスカンのことを指すほどの存在なのです。
遠野のジンギスカンの元祖は、
安部(あんべ)商店の初代梅吉さん。戦時中、満州で食べた羊肉の美味しさを遠野に伝えたいと思ったのがきっかけ。遠野に帰還後は、地元農家が飼育していた緬羊で調理できないか試行錯誤していたそう。しかし、2代目で現在社長の好雄さんによると、遠野では羊を食べる習慣がなかったため、なかなか受け入れられなかったそうです。
左上/スジを除去し、いちばんおいしく感じる厚さを熟練のワザでスライス。ほどよく脂が入ったラムカタロース
左下/昭和30年頃の遠野では羊が飼われていた(安部さんのアルバムより)
右上/安部さん一家。好雄さん(右)は遠野の「食」の語り部でもある
右下/遠野のジンギスカン文化を支える穴あきバケツ。買って家の庭でもやってみる?
そこで、「まずはジンギスカンの美味しさを知ってもらいたい」と好雄さんが考えたのが、ジンギスカンを購入したお客さんに、七輪と南部鉄器の鍋の無料レンタルをセットにして配達するサービス。これは好評だったのですが、「車だと未舗装の道を走ると七輪が割れちゃってねえ」(好雄さん)。数度にわたる試作の末に誕生したのが、穴あきバケツだったのです。
その後、穴あきバケツの中に固形燃料を入れ、上にジンギスカン鍋を載せ、肉を焼くスタイルを確立。配達・レンタル無料、しかも鍋は洗わずに返却OKという便利さもあいまって、あっという間に定着。今ではすっかり遠野の誇る地元の料理となりました。遠野のジンギスカンは、ご主人のサービス精神が生んだご当地グルメだったのです。
現在、遠野では羊を飼育していないため、ニュージーランド、オーストラリア産の羊肉を使用。精肉店ですから目利きは自信あり。ちなみに、お店で食べるときはガスコンロの上に鍋をのせます。
店内で手切りする肉は厚切り。まずはラムカタロースを焼いてみました。やわらかくて肉汁ジューシー。スライスの仕方でこれほど味が変わるとは驚き。遠野では自家製のたれをたっぷりひたして食べる「後づけ」が主流。甘さを抑えた醤油ベースでさわやかな酸味とピリ辛が魅力で、いくらでも食べられそう。ラムカタロースセット1,400円。羊肉好きはうまみ濃厚なマトンもお試しを。
安部商店
TEL:0198-62-4077
遠野市早瀬町2-4-12
営業時間 9:00~19:00 木曜定休
山にわき出るきれいな水と歴史が育てた
遠野の美味なる逸品
■まろやかな辛みが本物の証 宮守の本わさび
山深い宮守町達曽部(たっそべ)地区では、北上山地からわき出る清流を利用した本わさび栽培が盛ん。「食」の語り部で、葵食品加工生産組合の組合長・佐藤昭悦さんのわさび田を訪ねてみると、川のせせらぎにハウスを設営し、大切に育てているわさびが一面に広がっていました。
佐藤昭悦さん。足元を清流が流れていく。わさび田は下の地面作りが肝心。シンプルに見えてさまざまな工夫がされている
日差し厳しい8月にもかかわらず、ハウスの中はひんやり。さらさらと地面を流れる水に手をつけてみると冷たい!
「わき水は通年11~12℃でほぼ一定の温度を保っています。夏は涼やか、雪の積もる冬はかえってあたたかいと感じるくらいなんですよ」と佐藤さん。
おろしたてのわさび。やさしい薄緑色
地下茎部分をすり下ろしてみると、薄緑色でクリーミー。なめてみると、まろやかな辛み。突き刺すような嫌な感じがない。「西洋わさびと違って、このまろやかな辛さがわさび本来の味なんですよ」と佐藤さん。そして茎をかじってみるとこちらはピリッとした辛みが爽快。刻んだ茎を味噌で和えたわさび味噌は、キュウリにつけてぽりぽりいきたい。もちろん炊きたてご飯とはゴールデンコンビ。
たっそべ漬けというブランドで展開しているわさび製品。ガイドのおすすめは松前漬け。お酒とご飯が進んで困るくらい危険なおいしさ
ほとんどが地元で消費されるため、首都圏ではあまり知られていませんが、銀座の有名料亭も引き合いがきているそう。「食材の美味しさを引き立てる本わさびは食卓に欠かせない存在です。量産するのは難しいですが、本物のわさびを作り続けていきたいですね」(佐藤さん)。ストイックながらもどこか楽しげに作業している様子が羨ましく思えました。
葵食品加工生産組合
TEL:0198-67-6518
遠野市宮守町達曽部52-63-5 日曜定休
商品は道の駅遠野風の丘、道の駅みやもり内めがね橋直売所で販売。
■昭和天皇も召し上がった「明がらす」
明(あけ)がらすは遠野を代表する銘菓。断面のクルミがカラスを思わせる姿からその名が付けられたといいます。
明がらす。上部のふちのギザギザは「日の出」を、ごまはすずめをイメージした。ひとつ63円という価格もうれしい
製造元は、明治元年創業の元祖
明がらす本舗まつだ松林堂。明がらすの主原料は、米粉、ごま、くるみ。米粉と熱したシロップを混ぜ合わせて作られる生地は、らくがんと餅の中間のような食感。そこにクルミのカリッとした歯ごたえとゴマの香ばしさが重なる。
現在は4代目主人の松田勝夫さんと、息子の惠市さんが作っています。惠市さんによると、「私の祖父、つまり3代目の頃には、天皇陛下東北行幸の折、陛下ご夫妻に明がらすを献上したところ喜ばれて、その後も追加で注文をいただいたことがありました。自家用車もなかった時代、国鉄にかけあって深夜の貨物列車に乗せてもらって翌朝陛下滞在先の花巻までお届けしたのだそうです。今では考えられないことですけどね」。店頭には、そのときの関係者から贈られた礼状が飾られていました。
左/5代目の惠市さんと奥様。「洋菓子の修業はしましたが、今は明がらすの製造が主になっています」
右/店内に飾られていた昔の写真。賑やかなりし時代は店でも多くの使用人が働いていたという
元祖明がらす本舗まつだ松林堂
TEL:0198-62-2236
遠野市中央通り1-7
営業時間:8:00~19:00 水曜不定休
※「明けがらす」はまつだ松林堂の登録商標です。(No.3320033号)
■特産品を買うなら「道の駅遠野風の丘」
遠野の観光拠点となる道の駅。風の丘という名の通り、ウッドテラスから見下ろす盆地風景が美しい。タイミングが合えば、JR釜石線の車両が走っていく様子も見られます。
食品のほか、カッパのグッズも数多く販売
売店の人気は、遠野周辺の特産品や産直品。写真は葉わさびドレッシング、りんごジュース、ばっけ(ふきのとう)の甘酢漬け、遠野産のお米「いわてっこ」など。さらに今年は『遠野物語』発刊100周年を記念して、マンガ家の水木しげるさんがデザインした遠野物語100周年キャラクター「かたるくん」のラムネなどオリジナル商品も並んでいます。遠野の旬食材を味わえる食事処も併設。
道の駅遠野風の丘
TEL:0198-62-0888
遠野市綾織町新里8-2-1
8:00~19:00(10月16日~3月末は8:30~17:30) 無休
→まだまだあります!遠野の美味とふるさと絶景