不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

契約履行の着手とは何を指すのか

売買契約の解除をしようとするときには、「契約履行の着手」が大きな問題となります。これがいったいどのようなものなのか、売主と買主それぞれの立場における具体例を考えてみましょう。(2017年改訂版、初出:2002年7月)

執筆者:平野 雅之

【ガイドの不動産売買基礎講座 No.15】

前回の ≪手付金と申込み証拠金はどう違う?≫ のなかで、手付放棄や手付倍返しによる契約の解除は「相手方が契約の履行に着手した後はできない」と説明しましたが、それでは「契約の履行に着手する」とは、いったいどのようなことを指すのでしょうか。

法律的な表現では「客観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合」となります。また、履行の提供のための単なる前提行為は「履行の準備行為」とされ、履行の着手には該当しません。

しかし、これでは分かりづらいでしょうから具体例で考えてみましょう。


売主による契約履行の着手の例

買主の希望に応じて土地の分筆登記をしたとき(もともと分筆して販売する予定で、買主の希望とは関係なく当初の予定どおりに分筆したときは履行の着手になりません)
買主の希望に応じて建築材料の発注をしたり、建築工事に着手したりしたとき
売買物件の一部を引き渡したとき
買主の事情で先行登記(物件の引き渡し前に所有権移転登記を済ませること)をしたとき
売買物件の引き渡しと所有権移転登記(最終的な履行)


買主による契約履行の着手の例

中間金(内金)の支払い(手付金は該当しません)
引越し業者との契約など、新居入居を前提とした付随契約行為
新居に合わせた家具の購入など(どこでも使えるようなものだと判断が分かれます)
引き渡し期限を過ぎた場合で、売主が応じさえすればすぐに残代金の支払いができる状態にあるとき(数度の催告が必要)
残代金の支払い(最終的な履行)

なお、住宅ローンの「申し込み」は履行の着手に該当しません。


手付解除の期限を定める場合の考え方

手付放棄や手付倍返しによって売買契約を解除しようとする場合、たとえ自分が契約の履行に着手していたとしても、契約相手が着手していなければ解除は可能です。

逆に、相手側に履行の着手が認められる場合に、正当な理由がないままで契約を解除すれば債務不履行による損害賠償責任を負うことになってしまいます。

しかし、いずれにしても相手側が契約の履行に着手したかどうかは判断が難しく、実際にはケースバイケースで判断をするしかないため、これをめぐり裁判になることも少なくありません。

そこで、実務上は手付解除の期限について「○月○日までは手付解除が可能、それ以降はできません」といった内容を定める場合が多くなっています。中間金の支払いがある場合には、その期日に合わせることになるでしょう。

ただし、売主が宅地建物取引業者の場合に「買主の行使期限」を定めることは無効とされ、あくまでも売主が契約の履行に着手したかどうかが判断基準となります。

ちなみに、最高裁の判例では「履行の着手に当たるか否かは、行為の態様、債務内容、履行期の決定の趣旨・目的、関連する行為の時期等諸般の事情を総合的に勘案して決めるべき」(総合考慮説)となっていますが、なかなか難しいですね。

結局のところ、お互いに契約を守れば問題なく済むことなのですが……。


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