今回の一連の事件を生んだ背景を考えるとき、建築確認制度の問題点を避けて通ることはできません。
建物を建築する際には、工事着工前に建築確認を受けるとともに、工事完了後には完了検査を受けることになっています。ここで少し時代を遡ってみると、昭和60年代はじめの頃までは、完了検査を受けて検査済証が交付される新築建物は、一戸建ての場合ではおそらく1割にも満たなかったものと思われます(具体的な数字は明らかではありませんが、一説には5%前後だったとも)。そればかりか、建築基準法に違反するのが当たり前で、それを購入する消費者側でも「違反していないような物件は買わない」といった風潮すらあったのです。もちろんこの場合は構造面での違反などではなく、容積率オーバーによる延床面積の大きなものがほとんどですが、いずれにせよ建築確認の図面どおりに建つこと自体が少なかったのです。また、建築確認どおりに建築をして、完了検査を受けた後にいつの間にか部屋が増えていることもよくありました。
その当時、私は一戸建てばかり扱っていて新築マンションに接することが少なかったので、マンションでの完了検査受検率がどの程度だったのか実感はありませんが、同業者から聞くところによればマンションでもせいぜい2割程度だったとか。マンションの場合には一戸建てほどのあからさまな違反はなかったにせよ(目立ちますからね)、建物の配置が建築確認と違っていたり、屋内の車庫として申請された部分が住戸として販売されることなどもあったようです。
また、それを販売する側の不動産業者でも、建築確認を単なる儀式程度に受け止めたり(建築確認を受けないと販売開始ができない)、その敷地に建てても良いことの証明程度に考えたりすることが多かったように思います。
真剣に建築確認書類を審査してもそれと同じ建物は建たないのですから、その当時に自治体で建築確認業務にあたっていた建築主事らが、自分の仕事にやりがいや誇りを持てなかったとしても何ら不思議ではありません。また、まれに完了検査を受ける機会があっても、やってきた自治体の職員がさっと見回すだけで検査が終わってしまうようなこともあったものです。
それは自治体の職員だけにかぎったことではなく、住宅金融公庫などによる現場検査でも同じこと。かつてマンションデベロッパー系列の販売会社社長だったM氏の証言によれば、検査に来た住宅金融公庫の職員は、現場に着くなり「図面どおりに建てましたよね」「もちろんそのとおりです」「では結構です」と、建物を全く見ないままに検査が終わっていたとのこと。お帰りにはビール券を受け取って…。
もっとも、現場の検査で不合格になるような建物であれば、はなから完了検査や住宅金融公庫による検査の申請をしませんから、検査の手抜きによって問題が生じることもなかったでしょうし、すべての自治体職員や住宅金融公庫職員がこうだったなどと言うつもりもありません。おそらくは真剣に業務に取り組んでいた人のほうが多かったことでしょう。しかし、ある意味では形骸化した建築行政が長年にわたり続けられてきたことは否めません。今回の事件で問題になっている建築確認審査の甘さは、既に昔からその土壌があったと見るべきでしょう。
ちなみに、完了検査の受検率は徐々に向上しているものの、東京都が発表した資料によれば、東京都平均の検査済証交付率は平成9年度が33.1%、平成13年度が53.3%となっています。各都道府県では、完了検査と平成11年から導入された中間検査とを合わせ、受検率アップのための3か年計画(平成14年~16年)などを実施したほか、金融機関に対して検査済証のない建物への住宅ローン貸付を控えるよう要請したことなどもあり、現在では大幅に改善されているだろうと考えられます。
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