不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

瑕疵担保責任の条項が削除されていたが!?

売買契約書にあらかじめ印刷されていた「売主の瑕疵担保責任に関する条項」が削除されていたらいったいどうなるのでしょうか?一般消費者だけでなく、不動産業者の人でも勘違いしているケースがあるようです。(2017年改訂版、初出:2006年5月)

執筆者:平野 雅之


売主の瑕疵担保責任に関する売買契約書での取り扱いは少しややこしく、誤解されているケースもあるようです。



question
先日、私の妹夫婦が中古の一戸建て住宅を購入したのですが、その際に少し気になる部分がありましたので質問させてください。売買契約を仲介した業者さんは市販のものと思われる契約書の用紙を使っていたのですが、契約締結前に見せられたものでは瑕疵担保責任に関する条項がすべて線で抹消され、欄外には「第○条削除」と記入されていました。そこで相談を受けた私が営業担当者と連絡を取り、「引き渡し後2か月間は売主が瑕疵担保責任を負う」という内容に変更させたのですが、後になってこれで良かったのかどうか少し不安になりました。実際のところはどうなのでしょうか。
(山梨県甲府市 Kさん 40代 男性)



answer
引き渡した物件に瑕疵(かし=隠れた欠陥など)があった場合に売主が責任を負うことを定めた「瑕疵担保責任」ですが、その責任期間の考え方については一般消費者だけでなく、不動産業者の人でも勘違いしているケースがたまに見受けられます。

一戸建て住宅

売買物件に瑕疵があれば、売主がその責任を負うことが原則だが……

まず、民法による瑕疵担保責任の規定を確認しておくと「買主が瑕疵を知ってから1年以内」は売主に対して瑕疵担保責任に基づく権利の行使ができることになっています。

ここで注意したいのは「知ってから1年以内」という規定があるだけで、引き渡し後の経過期間について何ら定めがないことです。

つまり、民法に従えば引き渡しから5年後、あるいは10年後でも、「瑕疵を知ってから1年以内」であればよいことになります。

ただし、売主が瑕疵担保責任の消滅時効(10年間)の主張をしてそれが認められた最高裁判例もあるようですから、一概に「何年後でもOK」とはいえません。

しかし、不動産売買で民法の原則をそのまま適用することは、あまり合理的ではないでしょう。買主の立場だけで考えれば、民法の原則どおりでよいと感じられるかもしれませんが、自分自身が売主の立場になったときのことを想像すればお分かりいただけるでしょうか。

さらにその瑕疵が「引き渡し前からあったこと」を証明しなければならないことを考えれば、何年も先まで瑕疵担保責任を適用することは現実的でもないのです。

そこで実際の不動産売買では、特約によって売主が瑕疵担保責任を負う期間を定めることが大半です。このとき、売主が個人であれば「引き渡し後○か月」といったケースが多く、「瑕疵担保責任を負わない」とする特約も有効です。

また、古い(資産価値が認められないような)一戸建て住宅の売買などでは、瑕疵担保責任を免除する特約を付けることも少なくありません。

さて、ご質問のケースですが、法律面だけで考えると結果的には「余計なことをしてしまった」ということになりそうです。

ご質問にあるように、既製の売買契約書に印刷された瑕疵担保責任に関する特約条項を線で抹消し、単に「第○条削除」となっていれば、瑕疵担保責任の定めが何もないのと同じであり、民法による原則規定が適用されることになります。

また、特約条項が線で抹消されていなくても、「第○条不適用」などと欄外に記載されていれば同じことです。

したがって、不動産業者が提示した当初の売買契約書のままなら、引き渡し後何年先であっても「瑕疵を知ってから1年以内」であれば売主の瑕疵担保責任が適用されたのですが、ご質問をいただいた方が不動産業者へ変更を要求した結果として(もちろん良かれと考えて連絡をしたのでしょうが)「引き渡し後2か月間」に限定されることになってしまったわけです。

もし、「第○条削除」の文言とは別に「売主は瑕疵担保責任を負いません」という記載がされていたのならその特約は有効ですから、「引き渡し後2か月間」と入れさせることで成果もあったのでしょう。

契約書

売買契約書を正しく理解することは一般の人には難し過ぎる!?

ただし、法律的にはそうであっても実際に売主の瑕疵担保責任を求める必要が生じたときには、難しい問題が起きます。

売主と不動産業者のどちらも「瑕疵担保責任は負わない」というつもりで特約条項を抹消していた場合には、たとえその売買契約書が不適切だったとしても「はい分かりました」とすんなり賠償などに応じることは考えられません。

仮に裁判をすれば買主が確実に勝てそうでも、それまでの苦労や手間は免れないでしょう。

なお、中古物件の売買でもその売主が不動産業者のときには、“最低限” 2年間は瑕疵担保責任を負うことになっています。

これは宅地建物取引業法によって「引き渡しの日から2年以上」となる特約のみが認められているためで、実際には有効な最低期間である2年間を定めるケースが大半です。

したがって、不動産業者が売主となる物件の売買で、瑕疵担保責任について「引き渡しから○か月」や「引き渡しから1年間」など2年未満の期間が定められた特約、あるいは「瑕疵担保責任を負わない」とする特約などはすべて無効となり、原則どおり民法の規定が適用されます。

また、不動産業者が売主となる新築物件の場合には、基本構造部分について10年間の瑕疵担保責任を負うことが「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」によって定められていますが、これも10年未満の期間が定めてあればその特約は無効となります。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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