建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

コーポラティブで夢のSOHO

ゼロワンオフィスのコーポラティブハウス「M-Split」の一室を見せてもらいました。スキップフロアによって上下に移動するたびに、生活シーンが切り替わるという発想はSOHOにぴったりの住空間でした。

執筆者:坂本 徹也

スキップフロアの多用で縦の広がりを確保

縦に長いコーポラティブハウス「M-Split」

ゼロワンオフィスが三鷹に建てたコーポラティブハウス「M-Split」の一室を見せてもらいました。「M-Split」が竣工したのは02年の11月で、オープンハウスにも行ったのですが、見学レポートを発表するタイミングを逸したまま、今日に至っていたわけです。
「M-Split」は、住宅地に低層型の集合住宅として建てられるケースが多いゼロワンオフィスのコーポラティブハウスの中ではやや異質な存在。JR三鷹駅から6分という商業地域の中にあるため、中庭や路地を持たない地上7階建ての集合住宅として建設されました。

「M-Split」のエントランスホール
住民のコミュニケーションの場

この縦に余裕があることを利用して選択された計画は、スキップフロアによって構成された、立体的に広がりを持つ住空間の集合体にすること。そして、住戸内のスキップフロアのレベルをすべて均等にはせず、平面的な広がりを重視したレベルと、独立性を重視した小さなレベルの組み合わせによって、単純なメゾネットとはまったく趣きの違った室内を各住戸で実現したということです。見学させていただいたデザイナー夫婦の部屋もまた、この驚きに満ちた一室であるのは言うまでもありません。

能舞台のような寝室

室内には下がって入る、この感覚がなかなかいい

キッチンは手作りの家具・食器収納の裏側に

エントランスから一歩足を踏み入れると、いきなり下がっていく階段があり、L字の方向にリビングとキッチンが配されています。まるで半地下の空間に下りていくというイメージで、これがなかなかいい。
ただまっすぐ歩いていくのは違って、異質な空間に踏み込んでいくという感覚があります。そういう感覚を意識してか、ここは高いテーブルを置かず、床に座ってくつろぐスタイルのリビングになっていました。キッチンとリビングとの間には、収納家具が間仕切りがわりに置かれていますが、これも床材の色味に合わせた特注品であるのが明らか。インテリアとしてもなかなか素敵です。

数段上がったところにある寝室
まるで能舞台のよう
オープンハウス時の写真
壁収納の色を変えたことがわかる

向こう正面の壁はスクリーンに早変わり

さて、ここから3段ほど上がったフロアには寝室があります。つまりここのレベルはエントランスのある位置と同じということですね。土間からお座敷に上がる感覚というのでしょうか。生活シーンのスイッチが「上下に移動する」ことで切り替わるような気がします。
そして、この高床式の能舞台のような寝室は、ときに大画面を有する映画館にも早変わりするようです。向こう正面の広い壁をスクリーンにして、床に座って映画を観る、ワールドカップを観戦する、コンサートを聴く----とても贅沢な時間を味わえそう…。

寝室からLDKを望む、高さによる“変化”が見えよう

ところで、このスクリーンになる向こう正面の壁の下は吹き抜けになっていて、さらに下の階と空間的に繋がっていました(厳密にはグレーチングによって部分的に仕切られている)。つまりこの住まいは3層構造になっていて、リビングから下りていく3つ目のフロアが隠されていたわけです。そしてその部屋の様子は、この寝室からのぞき見ることができるということですね。

寝室からワークルームを望む、下はON TIME

立体的な広がりはSOHOにぴったり

さっそく地下室のような感覚の、窓のない最下階に下りてみますと、そこは人工的なライティングのみによるご夫婦の仕事部屋とバスルームになっていました。仕事がデザイン関係ということもあって、本棚にはデザインや美術に関する専門書がびっしり。広さはありませんが、むしろ使い勝手優先の「快適な狭さ」を実現したSOHOです。
職住接近といいますが、ここはまさに「職住同室」。自分の仕事時間を自分でコントロールできる人たちの理想的な住居といえそう。インターネットの普及で、今後はこうした住宅がますます増えてくることでしょう。

「快適な狭さ」を実現したSOHO

狭さを逆手に取ったトイレのデザイン

そして「M-Split」でゼロワンオフィスが提示してみせた、スキップフロアによって立体的な広がりをつくるという発想は、そうしたSOHOにぴったりだと思います。
食や憩いの場から「休息」へ、さらにOFFからONへと、都市生活者の生活シーンを切り換えるのに、上下の移動はとても有効。けっして効率のよい集合住宅の作り方とはいえませんし、コーポラティブハウスだからこそできる離れ業かもしれませんが、土地が絶対的に狭い都心では、こうした発想が今後求められるようになってくるような気がします。

企画・設計監理 :ゼロワンオフィス一級建築士事務所
構造設計  :YF建築設計事務所
施 工   :北島工務店

敷地面積  :264.29m2
建築面積  :136.79m2
延床面積  :698.78m2
主体構造  :鉄筋コンクリート造(ラーメン構造)
規 模   :地下1階、地上7階

ゼロワンオフィスのコーポラティブハウス作品一覧↓
 「T-Treppe」Part1」
 「T-Treppe」Part1」
 「J-alley」Part1」
 「J-alley」Part2」
 「J-patio」Part1」
 「J-patio」Part2」
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