文章:井上 明(All About「そば」旧ガイド)
このところ、執筆や活動の広がりで、出鱈目に忙しい日々が続いている。僅かな時間が出来ると、近隣の書肆にてあれこれの書物を見繕い、恐らくは積ん読になってしまう数冊を贖うのが愉しみとなっている。
やっと精神と肉体が業務という名の桎梏から解放されたひと時、液晶ディスプレイなどではなく、紙にしっとりとマージナルゾーンを滲ませながら印刷された活字の行間を追いながら、沁みこんでくる智識や、意表をついたエンターテインメントに心躍らせるという歓びは、
やはり極上のものだ。
そんなある日、八重洲の大型書店にグラフィックデザイン用の色見本帖という即物的な冊子を買いに出かけた。八重洲の大型書店は、残念ながらその時必要とした品を扱ってはいなかったが、印刷関連のコーナーには、M・マクルーハンの“グーテンベルグの銀河系”(みすゞ書房・1986)が展示されていた。ふむふむ。『ハイデッガーは、デカルトが機械主義の波乗り遊戯を楽しんだように、電子時代の波乗り遊戯を楽しむ』ですと。
わがAll Aboutの立脚するWeb環境の栄華を1986年の時点でするどく喝破したこの書物を手に、どこかでマクルーハンとWebに祝杯を上げるべく落ち着けるそば屋にむかうことにした。
足を向けたのは、藤田千秋さんという女性オーナーがキリモリする、銀座の一隅の名店。そう、あの店。