格闘技/K-1・PRIDE・格闘技関連情報

ニッカン「PRIDE消滅」記事の波紋(5)

ついに一般スポーツ新聞までが「PRIDE消滅」を語りだした。ニッカン紙上に掲載された問題の記事を軸に、10月改編でも復活が無かったPRIDEの現状と周辺事情を検証。

執筆者:井田 英登

“売り抜けスキーム”を狙った榊原社長


のドタバタ劇で損をした人間は、実に多い。

まず“夢の舞台”を突然奪われたファンが、最大の被害者であることは言うまでもない。

PRIDE崩壊の引き金を引いた形になったフジテレビも、結局有力なコンテンツを失い、放送局としての信頼に大きな傷を負ったわけで、明らかに被害者側に数えられるべきであろう。

また、今回の買収劇では悪者にされることの多いUFC(ZUFFA/ロレンツォ)も、よく考えてみれば決して得はしていない。確かに最大のライバルの殲滅には成功したというものの、あの当時、大会開催の度に赤字を作る状況のPRIDEは、 UFCが手を下すまでもなく崩壊は時間の問題であった。そしてその後の迷走ぶりをみるにつけ、彼らもまた、思惑が外れた部分が多かったにちがいない。

当時、PRIDEには彼らより先に、アメリカでのPRIDE開催を目論んで動いた元PRIDEアメリカ副社長エド・フィッシュマンという買収のライバルが有った。彼がPRIDEブランドを手にするよりは、先に買ってしまえという電撃的つば迫り合いとなり、UFCはやや拙速ともいえるようなスピードでPRIDEの営業権買い取りに走った。しかし、実際に手にしてみたPRIDEには、既に立て直すだけの内実が無かったのである。

その不可避であった死の運命を隠蔽し、あたかも命あるもののように見せかけて、PRIDEの看板に2006年後半~2007前半にかけての約一年間「屍の舞踏」を演じさせーー最終的に、この売却で益を得た人間が存在する。

旧DSE社長榊原信行
先代の故・森下社長亡きあとの“Re-born”PRIDEで、憑かれたように「ファンの熱意を実現する」というキャッチフレーズを語り続けた榊原社長。しかし、反面、矛盾の多い言動や選手情報に疎いなど、表の言葉ほど“熱さ”の感じられない人でもあった。彼はPRIDEの“慈父”であったのか、それとも“ユダ”であったのか。
そう。DSE元社長・榊原信行氏、その人である。

彼は近々、今回得た巨額の売却益を元手に新たなスポーツ事業構築(プロサッカーチームの運営関係)を準備中という噂を聞く。PRIDEで蓄えたスポーツビジネスのノウハウを、別ジャンルでまた展開しようという訳らしい。PRIDE買収から半年、早くも悠々たる第二の人生のスタートを切っているあたり、元ライブドア社長堀江貴文氏もまっ青な、いかにもバブル紳士らしい転身ぶりである。その意味で、彼の“売り抜けスキ―ム”はまんまと成功したことになる。

だが誰が何と言おうと、PRIDE消滅とも言われるこの混乱状況を生み出した最大の元凶は彼であると、僕は思う。

「PRIDE愛」を高々に叫び、“死の行軍”とは知らぬファンを威勢のいいプロパガンダで煽り、沈み行く巨大戦艦の甲板に立たせ続けたこの人は、明らかに“PRIDE消滅”という最悪の事態を導いたA級戦犯のはずである。

彼自身は、『PRIDE復活を祈り、娘を嫁に出した慈父』のイメージのまま退場してしまったが、DSE最後の一年間に彼が演じた悪あがきの数々が、その後のPRIDE復活の芽を摘んで行ったという例は少なくない。

そもそも、フジとのTV中継のディールを失った原因自体、彼と暴力団の黒い交際がやり玉に上げられたからなのだが、まず、その『無実』は一切証明されないままで終わっている事。これは決して小さくない。彼の交際が事実だったのか、あるいは週刊現代のでっちあげによる濡れ衣だったのかが明らかになっていれば、もっとPFWWは堂々と営業活動を展開できたはずだ。しかし、事の決着は未だにダークゾーンに放置されたままである。要するに、彼は敵前逃亡してしまっていて、新生PRIDEが絶対に必要としていた“潔白の証明”はなされていないのだ。

そんな調子では、もちろんTVディールを取り返せるわけもない。

また、彼の残した“無形資産”ともいうべき選手契約も、実はアナだらけだった。ーー例えば、2006年の年末前後から更新契約交渉に入ったエメリヤエンコ・ヒョードルの三試合契約など、確かにサインはされていたが、他団体への出場を禁止する項目は、ヒョードル側の拒否で外されている。実質、彼はPRIDEの専属契約選手ではなくなってしまっていたのだ。だから2007年のbodogロシア大会への参戦も実現したのだが、榊原社長はその実際の構造を知りながら、『そんな事はあり得ない』と否定し続けた。もちろん自分が水面下で進めていたPRIDE売り渡し工作への波及を恐れたためである。

またその契約金額も無茶苦茶で、一試合数億円(未確認情報では二億五千万)というまったく実効性の無い金額でサインされており、とてもではないが、その金額を出す能力は“死に体”のPRIDEにはない。元々、もう「ヒョードルをリングに上げるための契約」ではなくなってしまって、「PRIDE買収の付加価値を上げるためのカラ手形」を手に入れたかっただけなのだなという気がする。ただ、“PRIDEがまだ数十億の値段で買うべきゴージャスな商品”であるという事を粉飾するために、“チャンピオン”を空っぽな契約でキープしたのである。

そんな契約がホイホイ通ると思わされたヒョードルも、また一種の被害者であろう。3月のbodog参戦こそ、当時所属チームのレッドでビルとbodogの関係が緊密であったために、数千万の安いギャラで出場したものの、PRIDEからのオファーは当然途絶える。ではとばかりに、UFCと参戦交渉したものの、PRIDEの契約額ベースではUFCが首を縦に振るわけもない。結局、現在に至るまで再就職先の見つからない「流浪の皇帝」となってしまっているのである。
  • 1
  • 2
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます