ジーコ監督としてはどんな形でも勝って本大会出場を決めたいところ。日本のスタメンはGK川口能活(磐田)、DF(右から)田中誠(磐田)、宮本恒靖(G大阪)、中澤佑二(横浜)、右サイド・加地亮(FC東京)、左サイド・中田浩二(マルセイユ)、ボランチ・稲本潤一(ウエストブロミッチ)、福西崇史(磐田)、トップ下・小笠原満男(鹿島)、FW柳沢敦(メッシーナ)、鈴木隆行(鹿島)。2日前の紅白戦と全く同じ3-5-2だ。右ひざ痛の中澤は出場が危ぶまれていたが、試合当日にゴーサインが出てピッチに立てることになった。対する北朝鮮は4-4-2。J1・サンフレッチェ広島でプレーする李漢宰はボランチで先発したが、安英学(名古屋)の方はベンチ外だった。
日本はバーレーン戦で取り戻した「人とボールが動く組織的サッカー」を序盤から披露。圧倒的に押し込んだ。稲本、中田浩、小笠原、加地は準優勝の快挙を成し遂げた99年ワールドユース(ナイジェリア)の日本チームを彷彿させるようなスピーディでスムーズなパス回しを披露。小笠原、中田浩二、柳沢、鈴木隆行の鹿島カルテットも息が合っていた。中田浩二が入ったことで左サイドは落ち着き、守備も安定感が出た。それによって稲本や小笠原が前の選手を追い越す動きも出た。加地も積極的に右サイドを上がってクロスを上げる。前半は中盤を完全に支配した。が、課題であるフィニッシュになかなかいかない。30分が過ぎる頃までシュートゼロ。決定機もセットプレーくらいしかなかったが、いつ得点が入ってもおかしくない雰囲気が漂っていた。
スコアレスのまま迎えた後半。ジーコ監督はやや動きの重かった鈴木に代え、目下Jリーグ得点ランキングトップに立つ大黒将志(G大阪)を頭から投入。思い切って1点を奪いにいった。普段はあまり交代に積極的でない指揮官の奇策はズバリ的中。柳沢らFW陣がひっきりなしにゴールへと詰め寄るようになった。暑さや疲れによって選手たちの体力はじわじわと低下していったが、それでも「ワールドカップを自分たちの手で引き寄せる」という強いモチベーションは決して衰えなかった。
そして後半28分、ついに日本は均衡を破るのに成功する。小笠原からのFKを受けた稲本が前線にハイボールを上げたのがきっかけだった。ここに飛び込んだ大黒が相手DFと競り合う。このこぼれ球を後ろから飛び込んだ柳沢が右足シュート。鋭いコースに飛んだボールを相手GKも防ぐことができず、日本に貴重な1点が転がり込んだのだ。セリエAに移籍してから丸2年が経過したのに、未だセリエAでノーゴールという不名誉な結果を持つ彼だけに、この得点はうれしかったのだろう。本人も日頃は見せることのない派手なガッツポーズをして披露した。
その後も大黒が2度3度とゴール前に詰め寄るが、不可解なオフサイドの判定などでチャンスがついえてしまう。後半40分がすぎ、小笠原らがキープに入った。このまま逃げ切ろうかと思った日本だが、終了間際44分、田中誠(磐田)からのスルーパスを受けた大黒が抜け出してGKをかわしながらダメ押しゴールをゲット。2-0にして完全に勝負を決めた。
ロスタイム2分という表示だったが、レフリーはもはや戦意を喪失している北朝鮮の様子を見切ったのだろう。1分半足らずで試合を終わらせてしまった。ホイッスルが鳴った瞬間、ピッチ上の稲本が万歳。宮本ら最終ラインの選手たちも健闘をたたえあった。ベンチにいたサブの選手たちは円になって肩を組み、みんなで喜びのジャンプを繰り返す。死闘の末に手に入れた喜びはやはり大きかったのだ。が、やはりサポーターがいないということで、興奮と緊張感がちょっと欠けている。97年11月16日のジョホールバルを経験している自分には物足りなかった。あの予選は今回よりもっと波乱に満ちていたからそう感じたのかもしれないが、最後まで無観客試合が残念だった。
この後、キックオフ前から問題になっていたミックスゾーンに行ってみると、日本人サポーターとタイ人の一般客がなだれ込んで身動きが取れない状況に陥っていた。殊勲の柳沢も小笠原も鈴木も、もちろん中田英寿(フィオレンティーナ)も中村俊輔(レッジーナ)もいたのだが、一般人とメディアがごっちゃ混ぜになっているから声をかけても止まってくれない。私は何とか中田浩二と大黒に話を聞いた後、出口付近に移動したら、もう人・人・人で身動きが取れない。
そこに宮本が来たものだからもう大変だ。彼は「ミヤモトコール」に苦笑しながら、必死にメディアの質問に答えようとした。しかし軍人が「もう危険だから」と話半分のところで強制的に彼をバスまで連れて行ってしまった。後から来た大黒や川口も同様だった。こんな大事な試合できちんと取材ができないなんて…。
無観客試合という裁定と、試合後の混乱によって後味の悪い結果となってしまった。けれどももうドイツ行きは決まった。これからは本大会に向けての新たなチーム作りが始まる。「私は過去のチーム貢献度で選手を判断する」と話していたジーコだが、今後はアテネ世代の若手をテストするなど、新たな可能性を模索していく必要があるだろう。選手たちはワールドカップというより大きな舞台を目指し、ここか再スタートを切ることになる。彼らとチームのこれからの飛躍に期待しつつ、タイでの波乱の日々は幕を閉じた。
取材・文/元川悦子
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