日本代表・Jリーグ/アジアカップ 最新コラム

アジアカップ2004情報 vol.12 7月31日 準々決勝(2ページ目)

アジアカップ準々決勝ヨルダン戦。日本はPK戦の末、ヨルダンを振り切りベスト8進出を決めた。しかし、チームは傷つき満身創痍。次戦は中2日、しかも1200kmを移動する。

執筆者:小野寺 俊明

機転を利かせた行動で流れを変えた宮本
冷静さを保ち4連続でPK阻止した川口

後半に入るや否や、選手交代や布陣変更があってもよさそうだったが、ジーコ監督は手を打たなかった。それでも選手たちは何とかリズムをよくし、自分たちらしいパス回しを展開。両サイドからの崩しを試みるようになった。しかし肝心なところでミスをしてしまうなど、どうしてもゴールマウスを割れない。終盤には中村から鈴木に決定的なロングパスが渡り、ダイビングヘッド。けれども、これもGKに弾かれた。試合は結局、1-1のまま90分が終了。15分ハーフの延長戦に入ると、中2日の選手たちはもはや足が止まり、まともに動けない。スタジアムの雰囲気に推されたヨルダンの速いカウンターを食い止めるのが精一杯。とうとうPK戦を迎える羽目になってしまった。

日本の敗戦を見たい中国人たちは、これ見よがしにヨルダンを応援し、日本の邪魔をする。前日のPK練習でも成功率が低かっただけに、不穏な空気が漂った。案の定、日本は1人目の中村、そして2人目の三都主がピッチに足を取られて失敗する。このまま、終わってしまうのか……。

そんな時、キャプテン・宮本が突然、レフリーに向かって歩み寄り、流暢な英語でこう言った。「こんなに足場が悪いところでPKを続行するのはアンフェアだ」と。何が起きたのか分からないヨルダンの選手、ベンチ、スタジアムは騒然とする。この抗議でPKは一時中断。試合の歯車が大きく狂った。

結局、抗議は認められ、逆サイドでプレー続行となった。前代未聞のピッチ交代にヨルダンはこれで集中力を失った。逆に崩れ落ちる寸前だった日本代表は息を吹き返す。川口能活(ノアシャラン)が4人目を右手1本で弾いたのを皮切りに、ヨルダンは4人連続でミス。0-2からの劣勢をひっくり返し、日本は4-3で奇跡的な逆転勝利を収めた。こんな展開になっても最後まで諦めなかった日本選手たちの真摯な姿勢は高く評価したい。宮本の冷静な判断と川口の落ち着いた読みは、間違いなくチームを救ったといえる。

けれども、ヨルダン戦は間違いなく負け試合だった。こんな展開を招いた最大の要因は、ズバリ、ジーコ監督の采配である。中2日で準々決勝がやってくることを分かっていながら、イラン戦で主力組を全く休ませず、中村は左足を負傷。そのせいか、彼の動きにはキレがなく、120分間ピッチに立ち続けるのが辛そうだった。

メンバー交代も疑問だった。まず遠藤に代えて後半途中に中田浩二(鹿島)を投入したが、タイ戦でわずか2分しかゲームに出ていなかった彼は試合カンが鈍っていたうえ、練習でも福西とはコンビを組んだことがない。このため、つなぎのミスや決定機も逃すシーンが目立った。延長後半の松田直樹(横浜)の投入にしても、いきなり相手のセットプレーの真っ最中に彼を入れた。その瞬間、日本はDFが1枚少なくなり、大ピンチを招いた。松田にしても練習で一度もレギュラー組に入ったことがない。指揮官は非常事態に備えた準備など何もしていなかったのだ。

ヨルダンの出方も読み間違えた。この日は「相手は引き気味でくるから、前半はセフティに行く」というゲームプランだったという。ところが相手はキックオフから猛攻を仕掛け、主導権を握った。これを予測できなかったうえ、有効な修正手段も与えられなかった。その結果、準決勝・バーレーン戦まで中2日しかなく、しかも未知の場所・済南まで移動を強いられるというのに、90分間で試合の決着をつけられなかった。スタメン組の11人は酷使され、もはや満身創痍を通り過ぎている。

肝心な場面でミスの多い加地と三都主を起用し続けたこと、「これまで感じたことのないほど体が重い」という玉田を先発に据え続けることなど、疑問を挙げたらキリがない。無策のジーコ監督はまさに選手のクレバーさと真摯な姿勢に助けられたのだ。とはいえ、バーレーンはもっと過酷な試合になるだろう。運だけで勝ちきれるとも思えない。命からがらここまで上り詰めたものの、大会2連覇はそう容易ではないだろう。

*****

ジーコ監督

「ヨルダン戦は最初から厳しくなると予想していた。彼らはワールドカップ予選でもほとんど失点していないし、グループトップに立っている。今日は先制されたけど、追いついて点の取り合いから延長になり、PKは最初2人失敗したけど、タイトルを取るという執念があった。選手たちには最後まで絶対に諦めるな、サッカーは何が起きるか分からないという話をした。今日は本当にタフなゲームだった」

PKのサイド変更に関して…
「確かに今まで見たことはない。ゲームの最高権限者であるレフリーが彼の意思で決めたこと。彼に権利がある。ウチが蹴った後、相手の4番が蹴ってから変えるべきだったと思う」

宮本が言ったことに関して…
「3人目が蹴り終った時、宮本が自分で判断して、PKスポットの状態が悪いと主審に言った。彼はキャプテンとして判断して、意見した」

大ブーイングの重慶から逃れられるのでは…
「若い選手が歴史や政治的な理由でブーイングされるのはすごく残念だ。スポーツと歴史や政治は関係ない。国歌斉唱のブーイングはいただけない。済南でもヘルプはないと思うが、今まで通りやっていく」

宮本恒靖選手

「PK戦は運に左右されることがあるが、何とか勝ちたい気持ちがこの結果につながった。最初リードされたけど、諦めなかったことが第一。こういう試合は時間がすぎるうちに集中がなくなる。ルーズボールを拾えなかったり、1対1の対応がおそろかになったりする。集中力をキープすることが一番大事だとみんなに言っていた。一番苦しかったのは、延長後半の15分間。PKに関しては、やり続けるにしてはけりづらい状況だった。このまま続けたらフェアじゃないと思ったし、逆サイドでやり直すことができると主審に提案した。本来ならヨルダンの2人目も蹴ってから移動するべきだったとは思うけど。最後に自分もしっかり蹴れた。あのサイド変更が試合の流れを変えたと思う。自分の7本目は冷静に蹴った。普段の練習の成果が出たと思う」

PKのサイドを変えようと判断した理由は…
「ユーロでベッカムが足場の悪い中、2度PKを失敗したことで、イングランドも意義を唱えた。それで思いついたのはあった。俊輔の後、アレックスも同じようになったのを見て、主審に言うことを決断した。芝生は踏み込み足がごそっと流れる感じだった。PK戦になってほとんど負けていたけど、ああいう観客の歓声を静まり返らせることができて、本当にうれしかった。この状況の中で勝つことに意味があると思っていた」

●試合後の川口・三都主・本山・玉田・遠藤・鈴木・中村選手のコメント(3P目)
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