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ポール・アルテの古風な世界

降霊術と密室殺人、異様な死体、呪われた部屋――怪奇を解き明かす話は本格ミステリーの原型。そんな作風を現代に甦らせた異才ポール・アルテを御紹介します。

執筆者:福井 健太

フランスミステリー界の異才
ポール・アルテの持ち味とは?

『第四の扉』
惨殺された夫人の幽霊が棲むという屋敷で、降霊術のさなかに密室殺人が発生した。名探偵ツイスト博士はこの謎をいかに解明するのか?
怪奇現象としか思えない難事件を名探偵が解決する――エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」以来、このタイプの本格ミステリーは無数に書かれてきた。密室殺人の巨匠ジョン・ディクスン・カーをはじめとして、多くの作家が推理によって解決する怪奇小説を生み出している。謎解きを主旨とするミステリーにおいて、これは最も古典的な作風だが――ミステリーが多様化したことで――この手の作品は激減し、とりわけ欧米では絶滅寸前に追いやられていた。そこへ颯爽と現れたのがポール・アルテである。

ポール・アルテは1955年フランス生まれ。1987年のデビュー作『第四の扉』でコニャック・ミステリ大賞を獲得し、翌年には『赤い霧』で冒険小説大賞を受賞。現在までに30冊近い長編を上梓しており、その半分を犯罪学者アラン・ツイスト博士のシリーズが占めている。怪奇的な謎、不可能犯罪、クラシカルな名探偵などの要素を備えた作品群は、日本でも高い評価を受け、現在までに6冊(1冊は短編集)が邦訳されている。その内容をざっと御紹介しよう。

著者の名を高らしめた
最初期の3長編

『赤い霧』
10年前の事件を解決するため、男は故郷の地に帰ってきた。密室殺人と切り裂きジャックを結びつけ、意外な真相をスリリングに描く野心作。
まず『第四の扉』は著者のデビュー作。夫人の死体が密室状態の屋根裏部屋で発見されて以来、ダーンリー家には幽霊の噂があった。超能力者と称するラティマー夫妻がダーンリー家に転居した直後、隣人の作家アーサーが何者かに襲われ、その息子ヘンリーが失踪してしまう。数日後、ヘンリーは――不思議なことに――同時刻に複数の場所で目撃される。昔の事件の真相を探るため、屋根裏部屋で降霊術の実験が行われるが、そこでまたしても密室殺人が発生。ロンドン警視庁のハースト警部の依頼を受け、犯罪学者のアラン・ツイスト博士は事件の謎に挑んでいく。降霊術を絡めた怪奇的なシチュエーション、密室殺人のトリック、気の利いたオチなど、著者の持ち味が存分に発揮された1冊なのだ。

続いて邦訳された『死が招く』ではミステリー作家の変死が描かれている。鍵の掛かった書斎で発見された死体は鍋に顔と腕を突っ込み、その手は銃を握り締めていた。死後1日が経っているにも関わらず、傍らの料理からは湯気が立ち上っていた。現場は被害者が構想中の小説『死が招く』と同じ状況だったのである。解決にはやや微妙な点もあるが、巧みな状況設定を生かした作品なのは確かだろう。『赤い霧』はツイスト博士の登場しないノンシリーズもの。新聞記者と名乗る男が帰郷し、10年前の密室殺人――娘の誕生日に手品を披露していた男が、カーテンで仕切られた部屋で背中を刺された事件――を再調査するが、そこで新たな事件が起こってしまう。切り裂きジャックが暗躍する19世紀末のロンドンを舞台に、歴史の謎と密室殺人を融合させた野心的な冒険小説である。

アルテの第4作から第6作は次のページで御紹介します。
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