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【この世代に聞きたい】内山徹 自分自身のリアリティーを描く

制作に柔軟性を期待されながらも、方向性の確立も要求される30代後半の美術家を紹介していきます。自分自身のリアリティーとは?

執筆者:松原 洋一

内山さんの世代(1964年生まれ)は日本画の新しい波を起こしそうな世代として、期待され続けてきましたね。

ボクたちの世代は少し上の先輩たちに触発されて「新しい日本画」を作ろうという気運が高まっていました。自分もその流れのなかで積極的にやらなくてはいけないという気持ちがあり、従来の日本画にない表現を模索していました。


その頃同世代の仲間と「起・点」というグループ展をやっていましたね。

「起・点」は、10年とか20年たった後、あの時代に何かが起きたのだ、と振り返られるようなグループ展にしたいという思いを込めて付けました。一人4メートルの壁面を使っての大作の展覧会だったのですが、自主運営だったので3回しか続けられませんでした。


あれからもう10年たって、当時のメンバーはそれぞれの方向性を定めて活躍していますが、内山さんにとってこの10年はどうでしたか。

気がつくとあっという間に過ぎていったという感じですね。自分の方向性について迷い続けていたのは事実です。大学院の頃は化石シリーズを描いていましたが、それから変化して抽象的な表現を試みたり、テーマを模索して風・波・炎などの大きな作品を制作したり、主に大作中心の発表をしてきました。

5年ほど前にイタリアにスケッチ旅行に出かけたのですが、その時トルカーナの山岳地帯の街並みをスケッチしているうちに、何か人間の存在の本質に触れたような気がしました。

人間は自然との深い関わりの中で生きているのだという強い印象を受け、それから風景や花のスケッチを多く手がけるようになりました。


それは日本画的なものへの回帰ということでしょうか。

回帰というより、根源に日本画的なものがあったのだと思います。大学入学の際に日本画を選んだ時から、ボクの中にはずっと日本画という軸がありました。だからむしろ現代アートなどほかのジャンルも抵抗なく受け入れることができたのだと思います。そしてさらに美術だけでなく環境問題やニューサイエンスにも興味が広がっていきました。

7、8年くらい前だと思うのですが、すでにインターネット時代到来の予感があり、これから来るであろう情報過多の中で自分自身のリアリティーを確立することの重要性を考えるようになりました。


自分自身のリアリティーとは?

制作において自分自身のリアリティーを確立するということは、自分の中の根源に目を向けることでもあり、描こうとするものの本質を追求し、理解することであると思います。

学生のころ化石を描いていた時は、30万年前のものを手に取ることにロマンのようなものを感じていました。もちろんその感覚は今もあるのですが、一方で過去の体験や目の前で生きているものに、よりリアリティーを感じていたいという気持ちが強くなりました。

小説を読んでいて風景が頭に浮かんだら、それを心象風景として描くより、その風景を探してスケッチに出かけたい。そしてリアリティーを感じたい。

花を描く時、目の前にある生きたものを見つめながら、それが枯れ、また新しい生命が誕生していくようなサイクルが瞬時に感じられることがあります。それは、季節感という情緒的なものよりも、時間の流れというリアリティーに目が奪われるからだと思います。



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