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更新日:2003年08月18日

京極夏彦「妖怪シリーズ」新作出来! 『陰摩羅鬼の瑕』

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待望、渇望、切望、5年ぶりに京極夏彦「妖怪シリーズ」に新作が!白樺湖畔にそびえる「鳥の館」での花嫁殺害の謎。京極堂が落とすべき「憑き物」の正体とは?

■哀切な結末に感じる著者の実社会に向ける「視座」「視線」

さて、新作。
 前作『塗仏の宴』が、住人ごと消えうせた幻の村あり、記憶を改ざんする妖しげな宗教あり、不老不死の妙薬やら、プロットてんこ盛りで、あげくは、関口は、殺人事件の容疑者としてつかまっているし、その被害者は、あの話のあの人だし、中禅寺の妹で雑誌記者の敦子や、木場もかなりピンチで、あらゆる意味で、読者を引きずりまわした(その上、『宴の支度』『宴の始末』と二作に分けて、ファンを待たせたりして、本当に、もう・・・)のと比べると、きわめてシンプルな筋立てである。

 物語は、関口が、ある紳士にこう問いかけられるところから始まる。
「貴方にとって生きて居ることと云うのはどのような意味を持つのです」
 問いかけた紳士は、由良昴允。旧伯爵家の当主で、白樺湖畔にそびえる壮麗な洋館の主である。幼少期の疾病などから人生の大半を、鳥の剥製が無数に配されている「鳥の館」で過ごし、中年期にさしかかった彼は、五度目の婚姻を控えている。その宴に、彼と同じく旧華族の探偵、榎木津が呼ばれる。ところが、榎木津は、旅の途中で急病になり突然視力を亡くしてしまい、その介添えとして、関口が呼ばれたのだった。

 それにしても、華燭の宴になぜ、「探偵」が必要なのか?その原因は、過去四度の婚礼にあった。四人の花嫁は、ことごとく初夜に命を奪われており、事件は迷宮入りとなっていたのである。榎木津は、関口は、5度目の花嫁の命を守れるのか?一方、元・長野県警の老刑事から、由良家の噂を聞いた京極堂は・・・。

「謎」自体は、シリーズの中で、もっとも単純だと言えるだろう。慧眼の読者なら途中で真相を見抜けると思う。
 しかし、たとえ、見抜けたとしても、その結末は、あまりに不条理であり、哀切である。そして、おそらく、見抜かれることなんて重々承知の上で、この結末を用意したあたりに、私は、彼が実社会に向ける「視線」とでもいうものを感じずにはいられなかった。

 前作で、ムラという共同体が、民俗学的なアプローチから家族という最後の共同体の呪縛と崩壊、解体を、彼にしかできないアプローチで物語化した著者だが、本作では、彼は、さらにこう問う。
「家族」という「国」がきわめて閉鎖的で、そこで伝承されてきた世界観が、「外の国」のそれと照らした時、きわめて異形であったなら・・・。

 こういうことって、現実に、すっごくあると思いませんか?
 この作品の中で起こっていることは、見事なまでにフィクションであり、物語である。だが、しかし、今回、京極堂が落した「憑きもの」は、私にも、あなたにも、憑いているかもしれないものなのである。

「妖怪」という不可知なるもの、不条理と折り合いをつける「仕組み」を喪い、不条理が剥き出しになった「現実」を生きる多くの者にとって、京極堂の「言説」は、ある意味で、「癒し」なのかもしれない。あいかわらず、ベットの中で読むのが不自由なほど本は分厚いし、漢字は、多いし、朱子学やらハイデッカーやら、難解だし、それでも、「癒し」なのである。

 願わくば、あの弁当箱のような外見でひいてしまうことなく、トライしていただきたい。
 さらに、願わくば、シリーズの最初から。

 少なくとも、私にとっては、京極夏彦は、リアルタイムで作品を読めることが歓びと感じられる作家の一人である。

この本を買いたい!


ファンには、すっかりおなじみ、京極夏彦、宮部みゆき、大沢在昌のホームページ「大極宮」はこちら。

(執筆者:梅村 千恵)

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