書籍・雑誌/話題の本関連情報

直木賞 惜しかったね、作品特集 『手紙』 『繋がれた明日』

平成15年度上半期直木賞決定!惜しくも逃した「選外」の候補作についてのコラムをお届けします。第一回目は、東野圭吾『手紙』と真保裕一『繋がれた明日』。

執筆者:梅村 千恵


平成15年度上半期直木賞が決定した。
受賞作は、石田衣良『4TEEN』、村山由佳『星々の舟』。うーん、今回あたりは、東野圭吾かと思ったんだけどな~。まあ、対抗に挙げていた村山由佳さんが獲ったので、今回は、まあまあの成績かも。石田衣良さんも、候補に挙がるたび、「勲章」があって当然の方だと思っていたし。

予想が外れたから、というわけではないのだが、今回からは、二回にわたり、賞を逃した作品をじっくりめに紹介する。一回目は、第一回目は、ミステリー・サスペンス作家のニ作、東野圭吾『手紙』と真保裕一『繋がれた明日』。

東野圭吾、真保裕一とも、ここ数年、何度か候補に上がっていることや、今回の候補作が似通ったテーマを扱っていることは、前回のコラムで触れた。両作とも、賞うんぬんとは関係なく、昨今の世情と照らし合わせて読むと、深く考えさせられる内容である。

『手紙』東野圭吾 毎日出版社 1600円
この本を買いたい!


■犯罪者の家族は、どこまで責めを負うべきか――社会性の高いテーマを 「泣きのカタルシス」で読ませる『手紙』

まず、東野圭吾『手紙』。つい先日、某事件に関して、担当大臣の「加害者の両親は、市中引き回しの末、打ち首」という問題発言が批判の的となったが、同作は、まさに、肉親の犯罪によって、重荷を背負って社会対峙しなければならくなった若者の物語だ。

高校生の直貴のもとに、突然、驚愕の報せが届く。たった一人の肉親である兄が、強盗殺人犯人として逮捕されたというのだ。学業優秀な弟の進学費用捻出に窮した末の犯行だった。その日から、「犯罪加害者の身内」になった直貴。就職、恋愛・・・人生の節目節目ごとに、「服役中の兄」が立ちはだかる。社会の差別に苦しむ彼のもとへ、兄から「お前だけが自分の唯一の誇りだ」という内容の手紙を、何通も何通も届く。
兄が罪を犯した原因が自分にあったことに良心の呵責を感じながらも、人生の進路を捻じ曲げる兄の存在に憤りを禁じえない直貴。ある時期は、兄の存在を無視し、ある時は、受け入れようと努力し、葛藤を続ける彼が最後に見出した光明とは?

自身は罪を犯していなくても、罪を犯した者の家族であれば、何らかの形で、責めを負うべきか――著者は、主人公に安易に答えを見つけさせない。彼が出会うさまざまな人物の主張や生き方を織り交ぜ、じっくりと、彼の社会に対する向き合い方と心の動きを追う。
重いテーマを扱い、しかも、濃密に書き込みながら、息苦しさを感じさせすぎず、泣きのツボを抑えながら、最後まで読ませるあたりが、著者の巧さであろう。巧すぎて、は、鼻につく感じは少々あるのだが。
  • 1
  • 2
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます