末永くつき合いたい店『神楽坂 しなり』

"かくれんぼ横丁"のニューカマー

写真上/かくれんぼ横町の一角で閑かに佇む『しなり』の軒先。入り口の盛り塩は踏むのがマナー。写真下/訪れる度に変わる友禅染めや絞り染めなどの豪華な振袖

倉本聡脚本、二宮和也主演で話題を振りまいた『拝啓父上様』のスマッシュヒットによって、再び脚光を浴びはじめた神楽坂。続けて先の火事騒ぎである。すでに各メディアで知ってる方も多いだろうが、現場は、料亭などが密集する通称"かくれんぼ横丁"と呼ばれる石畳の一角で今回ご紹介する『神楽坂 しなり』から目と鼻の先、奇しくも取材の前日だったのだから、驚きという他はない。長い間守ってきた景観がこういう形で失われ悔しい、いや、実際の話。

とまれ、『神楽坂 しなり』が無傷で済んだのが不幸中の幸い。去年６月のオープン以来、界隈の方だけでなく外国のゲストも惹きつけてやまない。老舗料亭で腕を磨いた料理長による伝統の技と、四季折々に表情を変えた食材を自在にアレンジし、洗練された日本料理の味を伝えている。

老舗旅館をパリッと改装し、情緒ある路地裏にひっそりと佇む店構えは、檜を多用したなんとも贅沢な作りで、生け花のかわり友禅染めや絞り染めなどの振袖が出迎えてくれる華やかなおもてなし。店内は和の贅を尽くした完全個室の座敷、カウンターにライトアップされた竹林を望むバーを備えるなど、驚くほど豪奢な空間が広がっているのだ。

「着物を着る場を作りたい」女性に嬉しい心遣い

写真上/お座敷は全室静かな個室。20名までの宴会にも対応できる。写真下/季節を感じられる懐石コース(10,000円～)。その他、しゃぶしゃぶコース(8,000円)も人気

同店の始まりは、日本橋で呉服屋『匠』を営むオーナーの「着物を着る場を作りたい」との想いから。着物といえば神楽坂ということで、この地を選んだ。料理は体に優しい焼き八寸の懐石料理で、季節に合わせ、すまし仕立てのゴマよもぎ豆腐・海老一寸、サーモンの菜の花巻き、稚鮎・サヨリの梅肉巻きなど、見て、食べて楽しいものがズラリと並ぶ。

焼き八寸とは、簡単に言えば酒の肴。それらを数種類盛り合わせ、着物で畏まっていてもあまり大きく口を開けずにいただける、女性に嬉しいもの。味はもちろん、香り、彩り豊かで、伝統に新風を吹き込んでいる。