文章:田中 徹夫(All About「Soul・R&B・HIP-HOP」旧ガイド)
(23)[ GANG STARR ]
'90年、スパイク・リー制作の第二作目
『MO' BETTER BLUES』(ジャズ・アーティストの人生を描いたヒューマン・ドラマ)の挿入曲“Jazz Thing”、その存在によって広く世間に知れ渡るようになったヒップホップ・ユニット?ギャング・スター?。
その曲が醸した側面により、ジャズ作品をサンプリング・ネタとして掘り起こし多用した?ジャズ・トラック・ムーヴメント?の代表者として大きくスポットが当てられた彼らだが、その特徴はそれだけにあらず、だ。
~~~ まずはDJであるプレミアのトラック・メイキングにおける多彩なアイデアと卓越したスキル、良いものをズバリと見抜く見識眼。
トラック・チョイスにおけるセンスの良さに関しては冒頭に触れた部分にも見い出せるところだが、インストだけになかなかその特徴や個性を暴き出すのが困難でありしかも膨大な情報量を有するジャズ・ミュージックをその細部まで知り尽くし、リスナーが求めているグルーヴを的確に探しだす高度な知識と能力。
また彼の知識はジャズだけに留まらず、ソウル/R&Bも含めブラック・ミュージック全てに精通している。
そうした一側面に触れるだけでも、彼のセンスには誰もが脱帽する筈だろう。
及びまたそれらサンプルを余すとこなく器用に料理しきる高度なDJスキル。
初期時代におけるトラック・メイキングの特徴は、ヒップホップが誕生したオールド・スクール時代から続くオーソドックスな方法論の踏襲。
それは古いブラック・ミュージックの中から印象に残るのブレイクビーツをサンプリングし同じグルーヴで踊れるように永遠とループさせるといったもの。
この単純極まりない方法を地道に繰り返す彼のサウンドは、近代音楽文化にとっての最重要都市NYという都会の匂いや雰囲気、クールかつ殺伐としたイメージを大いに喚起させた。
過去の郷愁と時代の匂いをも感じさせる彼のトラックに魅了されたファンは少なくないだろう。
彼のトラック・メイキングにおける驚嘆すべき点は、たった一小節や二小節のフレーズを繋いだだけの単純なトラック(もちろん細部には様々な脚色が施されてはいるが)のみにてリスナーをヴァイブしてしまうところにある。
常に刺激的なサウンドを求めているリスナーに対し、敢えて単純でオーソドックスな方法論で真っ向勝負し尚且つ打ち勝ってしまうという彼の説し難いテクニック。
まさにこの部分こそ彼のサウンドを“プレミア・マジック”と表現する所以なのである。
~~~ しかし、そこだけには留まらずDJプレミアという人間は常に進化の途を辿った。
90年代中期に入ると、ヒップホップという音楽文化はメインストリームの範疇にも吸収され確実に利益を生み出すビジネスとしても認知されるようになった。
するとその莫大な利権を狙う為に様々な利害も生まれ、ヒップホップの原点とも言うべきサンプリング・ソースを有するアーティストやプロダクションからの圧力が次第に強まっていく。
つまりはサンプリング・ソースとして使用する際の使用料が高価なものになったり使用禁止の通達が発せられたりといった具体的な問題が持ち上がってきた訳である。
DJは様々な形でその障害を取り除こうとしたのであるが、プレミアはここでも彼のオリジナルな回避方法を模索した。
過去の楽曲からのフレーズをサンプリングするといった方法こそ変えなかったのだが、彼はその切り取ったサンプリング・ソースに様々な加工を施す事に挑戦したのだ。
時には逆回転させたり、時には回転数を落としたり、また切り取った一小節を更に一秒単位で切り刻み様々なコラージュを施した。
そして出来上がったものは、元ネタがあるはずなのにそのオリジナルの片鱗をも感じさせないスペシャルなものとなったのである。
つまりはサンプリングといえどもそのオリジナル・ソースを見えなくすることで、様々な規制という呪縛を解き放ったのである。
この技術にはヒップホップに携わる人間全てが驚愕し、またそれはヒップホップの新たな未来と新しい可能性をも示唆したのである。
“ヒップホップ職人”たるプレミアのストイックな音楽に対する姿勢、それこそが彼らに対するリスペクトの対象となっているのである。
(次ページに続く)