文章:五十川 晶子(All About「歌舞伎」旧ガイド)
国立劇場で8日より上演中の新作歌舞伎2本。その両方で主演し、一作品を演出した中村梅玉さん。役者にとって、新作歌舞伎の古典にはない魅力とは何か。初日直前の楽屋でうかがった。新作歌舞伎って何?
今月東京・半蔵門、国立劇場では新作歌舞伎2本を上演している。さてこの「新作歌舞伎」ときいてどのようなものを想像するだろうか。
現在歌舞伎座を初めとする大劇場で主に上演されている演目を、非常に大きく分類してみよう。
たとえば人形浄瑠璃を歌舞伎化した演目(義経千本桜など)、能などに取材した松羽目物(勧進帳など)、舞踊(吉原雀など)、さらに新歌舞伎と呼ばれる明治以降の作家による作品(岡本綺堂の修善寺物語など)がある。
新作歌舞伎とは、現代の作者により全く新しく書かれた作品である。たとえば瀬戸内寂聴作『源氏物語』や立松和平作『道元の月』が近年歌舞伎座などで上演されたのは記憶に新しい。また国立劇場では毎年新作歌舞伎を公募しており、その入賞作品を過去に6回上演しており、昨年からはさらに入賞作品から2本ずつ上演するという試みを始めている。
今年も3月8日より、その入賞作から『実朝(さねとも)』(岡野竹時作)、『斑雪白骨城(はだれゆきはっこつじょう)』(岩豪友樹子作)が上演されている。その両作品で主演し、さらに『白骨城』の方では初めて演出を手がけた中村梅玉さんに話をきいた。
まずは、「新作歌舞伎の魅力」とはなんなのか。
「(新作歌舞伎の上演という)この企画は、私たちが待ち望んでいたものです。歌舞伎が生まれて400年の歴史がありますが、その時代時代にふさわしい新作が生まれているんですね。現代に生きる俳優の一人として、また将来の歌舞伎のためにも、新作歌舞伎が必要なんだと思います」。
話をうかがったのは初日の前日、7日の舞台稽古が終了したばかりの楽屋である。「ちょっと風邪気味なんですよ。ごめんなさいね」と言いつつも、梅玉さんは疲れも感じさせずいつもの端正な佇まいで明朗に、そしてゆっくりと答えてくれた。
「型がないからゼロから作る。それが面白い」
新作歌舞伎は必要。だが上演に至るにはいくつものハードルがある。
興行的な実績がないこと。「勧進帳」や「忠臣蔵」なら内容がある程度知られている。だが新作についてはどのくらい客が入るのか読みにくいというリスクがある。
さらに舞台や衣裳など使いまわしはきかない。
役柄をどう作っていくのか、台詞はどのようにいえばいいのか、立ち位置は? 音楽は? 何もかも前例がない。
もちろん役者は台詞を一から入れなくてはならない。毎月の興行のスケジュールの合間を縫って新作の準備をすることは並大抵のことではない。
つまり古典が時代を経て練り上げ洗練してきたものであるのに比べ、新作は何もかもがゼロからのスタートなのである。
だが梅玉さんは今回それにチャレンジした。
「(新作の上演は)本当に大変です。ですが、やはり作り上げていく楽しさ。これに尽きますね。古典の場合、型を自分のものにしていくことから始まるわけでしょう。ときに『自分の解釈はこうだ!』とばかりにやってみると必ず失敗する。いえほんとですよ(笑)。でも新作は逆でしょう。演じ方によって全く別のものに変わる。別の色合いになる。それが面白いんですね」。
梅玉さんは最近携帯電話を使い始めたという。着メロは元ちとせやドリカム、大学の後輩であるというサザンなどがお好みという。