子供の教育/習い事

習い事をたくさんさせる親、子どもにお稽古させるその心理とは

「個性」教育重視の現代、子どもたちの習い事やお稽古も様々です。一週間のスケジュールがぎっしり埋まっているという子や、子供以上に熱心な親御さんもめずらしくありません。子どもにお稽古事や習い事をたくさんさせる親の心理とはどのようなものでしょうか?

河崎 環

執筆者:河崎 環

子育てガイド

習い事をたくさんさせる親……子育ては親のコンプレックスを反映?

習い事をたくさんさせる親、子どもにお稽古させるその心理とは

習い事をたくさんさせる親、子育ての深層心理とは

育児は「育自」、とよく言われる。育児をしながら、実は育てる親の側もかつての自分の成長を振り返り、考え、感謝や後悔、様々な感情を覚えながら自分の子どもを育てていく。子育ては自分育てでもあるというわけで、したがって親の価値観やコンプレックスは子育てに如実に反映されてしまうのである。

たとえば同じように子どもの極端なお稽古事に走ってしまう親にも、2つのパターンがあるという。その分野での自分の経歴にプライドを持っていて「自分と同じように、いやそれ以上に育って欲しい」という親もいれば、「自分はやりたいのにできなかった」「自分はこの分野で劣っていた」というコンプレックスの裏返しという親もいる。親の優越感と劣等感、そのどちらもが、客観的に見て極端なお稽古ぶりにつながる原因ともなるのだ。

子どものお稽古事に熱中し、自分のことのように励む親たち。その深層心理とは、一体どういうものなのだろうか。
   

幼児教室に通わせ睡眠中も英語教材テープを聞かせる、あるママの例

英語がネックで、夢は叶わなかった

英語がネックで、夢は叶わなかった

世田谷区に住むカズエさん(39)は、静かに眠る3歳の息子の枕元で、毎晩英語のCDを小さな音でかける。「OL時代、自分もこうやって睡眠学習をしたり、通勤電車の中でカセットを聴いたりして、英語を覚えたから」と、睡眠学習の効果を固く信じている。

男女雇用機会均等法が施行され、女子の総合職が断然注目を浴びた時代の入社組。一般職で入社したカズエさんは、小学校教諭をする「職業婦人」の自分の母親の影響もあって、人一倍総合職への憧れが強かった。強く要望して営業の部署に回してもらい、そこでの活躍が認められ、総合職への転換試験を受験できるまでにこぎつけた。しかし、ハードルは試験科目の「英語」。学生時代からカズエさんが最も苦手とするものだった。

雑誌や新聞に大々的に載っている、絶大の効果を謳った英語教材テープを購入し、24時間寝てもさめても聴き続けたが、試験結果は不合格。一般職で職場にい続ける自分に疑問がわき、お見合いをして結婚、長い不妊治療の末、一人息子を授かった。「英語ができなければ、将来、絶対に出世できない」。そう信じるカズエさんは、難色を示す夫を説き伏せて、英語はもちろん、IQ200の天才児を育てると謳う幼児教室に1歳に満たない息子を入れ、週に3回通うようになった。

頭脳に働きかけるというプログラムは、講師と子どもに親が交じって数種類の日本語や英語のフレーズを歌いながら部屋中を踊りまわるというもの。同じフレーズを繰り返すことで、子どもの脳に定着させる効果があるのだ、リズムや声の抑揚も計算されたものなのだ、と、講師は説明する。このフレーズを家庭でも、と母親たちは教室で販売されるCDを全種類買い求め、家にいる時も車の中でも、折に触れて子どもたちに聞かせ続ける。

幼児教室の仲間でも、睡眠学習までさせている人はいない。「常に人よりも頭ひとつ出てないとダメですから」と、カズエさんは、今夜も息子の枕元でCDプレイヤーのスイッチを入れる。
 

娘をフィギュアスケート選手に!母親も猛烈ダイエット

女の子にさせるお稽古なら・・・

女の子にさせるお稽古なら・・・

「やだ、太ったかも」。トモヨさん(35)の口癖だ。決して太っているわけではなく、むしろやせすぎなくらいだが、本人曰く、「43キロを1グラムでも超えたら、即ダイエット」。160センチ43キロというスリムな体型を維持するのが、意地でもあるという。

高校生時代、ただひたすらリンゴだけを食べ続けるというリンゴダイエットが流行し、トモヨさんも友達につられて始めた。信じられないほど細い足をした外国人モデルたちがティーン誌を飾り、その姿に近づきたいと思った。「理想はあばら骨がちょっと浮いた、華奢なバレリーナ体型」。面白いほどにやせていったが、ある日体調を崩し、断念。リバウンドだったのか、成長期ゆえか、その後はすっかりぽっちゃり体型の10代を過ごした。

もともとぽっちゃり体質の家系で、20代になってからもいろいろなダイエットを試しては挫折した。体型は長い間のコンプレックスだった。その反動か、結婚相手は細い人じゃないとイヤ、と、細身の男性がタイプで、結婚相手には自分よりもウエストの細い男性を選んだ。一人娘は、今のところパパの体質を受け継いだようだ。骨も細く、手足が長い。女の子にさせるお稽古ならバレエ、と決めていたトモヨさんだが、TVのフィギュアスケート選手権を見て、「フィギュアスケートなんかも向いているかも」と、厳しい指導で有名な、有名選手も所属するアイススケートリンクへ通わせることにした。

スケート経験者のママたちもたくさんいるその教室では、すべてがカリスマ的先生を中心に回っている。「バレエや新体操と同じように、お子さんが選手として成功するかどうかは、お母さんの体型を見ればわかります」という一言に、トモヨさんは奮起した。技術や体力だけでなく、容姿も重要なのが、この競技。リンクでときおり見かける有名選手は、芸能人のようなオーラがある。

トモヨさんは出産後、体質が変わったのか体重が減っていたが、「娘が私の体型のせいで不自由な思いをするのはかわいそう」と、さらなるダイエットを決行、ジュースだけを飲むというダイエットで、3ヶ月間でさらに5キロ落とした。「フィギュアはお金もかかりますし、やり始めたならそれを中心にした生活に切り替えないと」と、娘の食事も高たんぱく低カロリーに徹している。

小学校に上がった娘は、幸い、フィギュアに熱中している。先生も「この子は自分で楽しんでいるし、センスがいい」と言ってくれた。娘は休みの日は早朝から夜まで、ずっとリンクにいる。表現力をつけるため、これに加えてバレエ教室にも通い始めた。「技術面でも芸術面でも、『隙』があると、本人が悔しい思いをしますから」。憧れの選手を目指して、親子で取り組んでいる。
 

息子を体の強い男にしたかった、ある経営者の例

とにかく体だけは鍛えなければ

とにかく体だけは鍛えなければ

都内でITベンチャー企業を経営するノボルさん(34)には、人知れぬ悩みがある。今でこそ会社経営も軌道に乗り、収益も安定、数十人の従業員を食べさせ、ノボルさん本人も高収入を手にして「若きIT経営者」のイメージが定着しているものの、学生時代は真っ暗だった、と言う。

もともと身長162センチと小柄なうえ、軽度ではあるが小児ぜんそくを持っていた。自己主張の強い秀才タイプで、周囲からは浮いていた、と振り返る。中学のとき、高校受験を前にして、ぜんそくを理由に欠席が多いのは、ズルをしているのではないか、成績がいいのを鼻にかけている、と男子生徒グループからいじめを受けた。自己主張があるのも周りでは気に入られなかったようだ。他の男子も女子も、気づいてはいたがそ知らぬふりをしていた。

高校受験までの我慢だ、と自分に言い聞かせ、教師の前でも平気なふりを続けた。体が強ければいじめられないのではないか、と、ランニングや筋力トレーニングにも秘かに励んだ。受験には合格したが、人間不信から、新しい交友関係が苦痛になった。もともと「どちらかといえばオタク体質」で、学校に行くよりも自宅で一人でいろいろと考えているほうが楽だった。勉強は全く苦にならない。高校を半年で自主退学し、自分のペースで予備校に通いながら大検を受験、情報工学で有名な大学に入学した。
 
大学時代には早くも頭角を現し、自分のアイデアを事業化するのに、そう時間はかからなかった。でも、いつもネックになるのが人間関係。かつての苦い経験から、誰彼問わず体つきの大きい男を見ると、まず警戒してしまう。人には言えた話ではないが、経営者としてある程度の名を成しても、潜在的な恐怖は決して払拭されないのが、プライドの高いノボルさんには悔しい。

結婚し、一人息子ができたが、まず考えたのは「体の強い男に」ということだった。頭脳は、自分に似れば問題はないと考えている。妻には、「男はとにかくスポーツで鍛えなければダメだ」と口を酸っぱくして言い続ける。生後半年でスイミングスクールに通わせ、リトミックや体操教室、空手もさせた。息子が幼稚園に上がる頃には、月曜日から土曜日まで、スイミング、体操教室、サッカー、空手と幼児教室で一杯のスケジュールをこなさせていた。

幼稚園で、先生に「習い事が多すぎます。子どもの生活パターンではありません」と、習い事を減らすように指示された。他の子どもに比べて、息子は明らかに疲れているという。習い事に通うことが目的となって、幼稚園には毎朝遅刻する。いつもだるそうに園庭の片隅に座って、他の子どもと交わる元気もなさそうな息子の様子を妻から聞いて、初めは「こんなに体を鍛えさせてきたのに、何だ」と少し腹が立った。

しかし、それまではだるそうに自宅の居間で寝転んでいた息子が、自分が部屋に入った途端にいずまいを正しているのを見て、息子は自分に遠慮している、恐れを抱いていると気づいた。人に恐怖心を抱くようには育てたくなかったのに、と、ノボルさんの胸に酸っぱい気持ちが広がる。

習い事を減らしてもいい、と息子に伝えると、見たことのないようなうれしそうな顔をしていた。良かれと思ってやってきたことが、息子に負担をかけてきたことを痛感し、ノボルさんは「空手は続けような」と、一言だけ伝えた。
 

跡取りとなる息子に注がれる開業歯科医の妻の情熱

大阪ど真ん中の洋品店の娘として育ったヨウコさん(40)は、根っからのナニワ節オンナであると自覚している。4人兄弟の2番目。小学校から高校まで、自宅から徒歩圏内の地元校に通い、ごくフツウの少女時代を過ごしてきた。4人も子どもがいたから、親は習い事などをさせる余裕がなく、ヨウコさんはピアノが弾ける友達はみな「お嬢さん」と思って育ったという。

大阪の短大に入って、ヨウコさんはカルチャーショックを受ける。女子学生たちがみな、雑誌の中から飛び出てきたようにキレイな格好をして歩いている。聞いたことはあるが見たことのないブランド品をあちこち身に着け、キャンパスではヴィトンのモノグラムバッグが溢れていた。

アルバイトで稼いだお金をつぎ込み、ヨウコさんもブランド物を身に着けるようになる。もともと華やかな顔立ちのヨウコさん、社会人になって自分の自由になるお金を手にすると、ブランド好きは加速した。バブルに乗って派手に遊び、知り合いに紹介された神奈川在住の開業歯科医と結婚した。

生まれた一人息子は、当然のように跡取りとして期待される。夫も、夫の両親も息子を溺愛。嫁としては、この息子の教育に重い責任を持つこととなる。歯科医の世界には、ヨウコさんの育った環境とは全く違う派手さがあり、ヨウコさんは周りを見ながら適応しなければならない。「成功する男に育てなければ」。高級服を身にまとい、学業も芸術もスポーツも仕事も会話も一流。そのためには頭脳と体力が必要、と考えた。

1歳半からモンテソーリの幼児教室に通い、有名幼稚園を受験して入園した。息子にさせる習い事は、すべて「頭脳と体力の向上にいいかどうか」が基準となる。音感をはぐくみ、手先を使うことで頭脳を刺激するバイオリンを習わせ、毎日つきっきりで練習させる。体力づくりにはスイミング、敏捷さを身に着けるためにサッカー。どちらも、引退した有名選手が指導するような教室に入会した。

歯科医仲間のすすめで、静岡の乗馬クラブが主催する乗馬キャンプにも参加させた。子どもたちのオートバイレースにも参加した。視力検査で視力が下がったと言われれば、100万円かけて視力矯正のプログラムに通った。「成功する男は、なんでも一通りできないと」。自分が、小さいときに習い事をさせてもらえなかったから、息子に少しでも良いと思ったことは、本人の意向はともかくとして、必ず手を出してみる。

ある日、自分の前ではいつも聞き分けがよい「おりこうさん」の息子が、幼稚園で友達と交われないでいるという話を、先生から聞いた。「お母さんを通してでなければ、人間関係が結べないのかもしれません」。引っ込み思案では、成功する男にはなれないではないか、とヨウコさんは困った。コミュニケーション能力を高めるには、何の教室に通わせたらいいのだろう?ヨウコさんは、いま真剣に探している。
 

親のコンプレックスを子育てで解消しようとするのは危険

子どもを振り回していませんか

子どもを振り回していませんか

親が、自分のコンプレックスを自分の子どもで解消しようとすることの危険性は、以前から指摘されている。たとえば芸能界に憧れていた親が、自分の子どもを芸能界に入れることで、その業界の空気を吸い、自分が芸能人になったような錯覚を起こす。親と子の自我の境界がなくなり、子どもの失敗や成功が親のものと直結してしまい、極端な賞賛と叱責で、子どもを振り回してしまう。

子ども自身の自我の確立が阻害されるだけでなく、親もまた、自分の生きがいと子どもの成功を取り違えているために、子どもが親離れしたときには空虚な親子関係だけが残されてしまうのである。

親が極端なお稽古に走るのは、子どもを自分の言いなりにし、支配していることの現われ。正常な親離れ、子離れができなくなれば、子どものために良かれと思うことも、結局子どもの人生を台無しにしかねない危険もあるということだ。子どもを育てる、という視点よりは、子どもが自分から育つのをサポートする、それくらいの姿勢がちょうどいいのかもしれない。

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