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平安貴族の「雅(みやび)」な色……かさねの色目とは?

「和」の伝統色の中でも人気の高い「かさねの色目」。そんな平安貴族の「雅(みやび)」な色から、早春にふさわしい色・配色を3つずつご紹介します。四季折々の自然を模した、日本ならではの美しい色・配色をご覧ください。

松本 英恵

執筆者:松本 英恵

カラーコーディネートガイド

かさねの色目……平安貴族の「雅(みやび)」な色

かさねの色目は「雅(みやび)」な色

かさねの色目とは、衣の表地と裏地が重なりあってできる「重層色」のこと。衣をかさね着するときの「配合色」を指す場合もある。

「かさねの色目」とは、平安時代(794年~1192年)から鎌倉・室町時代(1192年~1573年)の貴族の装束の色のこと。植物の花や実や根から「色素」を汲みだして絹などを染めあげた「染織物」の色のことを指します。また、「かさね」を、「重(かさね)」と書くときは、衣の表地と裏地を重ねたときにできる「重層色」を指し、「襲(かさね)」と書くときは、衣を重ね着したときにできる「配合色」を指します。

宮廷に仕える女官たちは、季節の移り変わり、宮廷のおける「ハレ(公け)」と「ケ(平常)」、着る人の年齢や好み、個性などに合わせて、衣服を選ぶセンスや教養が必要とされていました。そして、自然への融和を大切にした平安貴族たちは、衣服の色にも自然の美を積極的に取り入れ、四季折々の自然を模した、日本ならではの美しい色・配色が生み出してきました。

ひとくちに「かさねの色目」といっても、実に様々な色があります。そこで今回は、早春らしい色目の中から6つ選んで、ご紹介します。
 

<目次>

重(かさね)の色目~表地と裏地が重なりあってできる色

「梅」は早春を象徴する色。冬から春にかけて身につける装束には、「梅」にちなんだ色が多く見られます。

「梅」は早春を象徴する色。冬から春にかけて身につける装束には、「梅」にちなんだ色が多く見られます。

布を染め上げた「染色(そめいろ)」、先染(さきぞめ)の経糸と横糸が織りなす「織色(おりいろ)」の他に、裏地を付けた袷(あわせ)仕立ての衣に見られる色が「重(かさね)の色目」です。当時の染色技術では、現代のような多種多様な色をつくりだせなかったという事情もありますが、2つの色、風合いの異なる布が重なりあってできる「趣」を、平安貴族たちは楽しんでいたようです。

「和」の色名には、自然にちなんだ名前が多く、平安の貴族たちは、四季の移り変わりとともに変化する野山の彩りを、自らの衣裳にまとってきました。早春の時期は、「梅」にちなんだ色が多いのが特徴です。

かさねの色目

かさねの色目

 

■雪の下(ゆきのした)
着用時期:冬、表:白、裏:紅梅

梅の花に雪が積もって、寒さのなかにも凛とした佇まいを思い起こさせる色です。裏地にもちいられる「紅梅」は、乾燥させた紅花の花びらを水のなかで揉んで紅色を出し、梅の実を燻製した烏梅(うばい)からとった酢で鮮やかに発色させることで得られます。表地には、精錬していない張りのある生絹(すずし)がもちいられていたようです 


■梅(うめ)
着用時期:春、表:白、裏:蘇芳(すおう)

奈良時代に中国から渡来した「梅」は、平安時代には、「白梅」は香を、「紅梅」は色を主として賞玩されていました。この色は、咲き匂う「白梅」の花の色を表したもの。裏地にもちいられる「蘇芳(すおう)」は、熱帯の豆科の植物「蘇芳」の煎汁をもちいることによって得られます。
 

■莟紅梅(つぼみこうばい)
着用時期:冬春、表:紅梅、裏:蘇芳(すおう)

平安の女官たちが愛用した「紅梅」の色の衣。四季の移り変わりを大切にしていた平安貴族たちにとって、2月以降に「紅梅」の色の衣を身につけるは時期はずれとされていました。『枕草子』の「すさまじきもの(あきれるほどひどいもの)」の中にも、3、4月に「紅梅」の色の衣を身につけることがあげられています。
 

襲(かさね)の色目~重ね着スタイルの配色美

平安時代の貴族の装束をお手本にした、雛人形の衣裳。襟、袖、裾の色のかさね方にに注目!

平安時代の貴族の装束をお手本にした、雛人形の衣裳。襟、袖、裾の色のかさね方にに注目!

平安の装束といえば、「十二単(じゅうにひとえ)」。宮廷のおける「ハレ(公け)」の装束で、打袴(うちはかま)、単(ひとえ)、五ツ衣(いつつぎぬ)、打衣(うちぎぬ)、表着(うわぎ)、唐衣(からぎぬ)などをかさねたスタイルのことを指します。かさねた一枚一枚の衣の表裏を見せるために下から上へ寸法を小さくし、下の衣の袖口、襟、裾が1センチほど長くなるように仕立ててあります。

※参考サイト:杉野学園衣裳博物館 日本衣裳

季節やハレの行事の内容に合わせて、様々な衣のかさね方、色のかさね方がありますので、その中から、早春のこの季節にふさわしい配色を3つご紹介します。

 

 
かさねの色目

かさねの色目

  

■紅梅の匂(こうばいのにおい)
「単(ひとえ)」
は、装束のベースとなる、裏地のない衣。上に着る衣との配色美をととのえる重要な役割を担っています。色名は「青(あお)」となっていますが、実際の色みは「緑」です。古来の日本語は、グリーンからブルーにかけての範囲を、「アオ」という1語で呼んでいました。これは、日本語の特殊性ではなく、世界中の様々な言語で、同様の傾向が見られます。

また、中央に「紅梅」の色が2つ並んでいますが、右側が暗く、左側が明るく見えていると思います。このように全く同じ色であっても、隣り合う色(淡紅梅、濃紅梅)との対比によって、色の見え方は変わってしまうものなのです。(明度対比)
 

■梅重(うめがさね)
「五ツ衣(いつつぎぬ)」
は、文字どおり5枚かさねて着用する衣のことです。「紅梅の匂」や「梅重」のように、下に行くほど濃くなる同色の組み合わせを「裾濃(すそご)」といいます。「五ツ衣」の配色は、このようなコントラストの弱い融和的なものが多いのが特徴で、単調にも見えますが、この上にかさねる打衣、表着などとのコントラストによって、華やかな印象になっています。
 

■色々(いろいろ)
「藍(あい)」
と並んで、植物染めを代表するのが、「紅(べに)」。エジプト原産の「紅花」はシルクロードを経て、5世紀頃、日本に渡ってきたと言われています。夏に咲いた花を乾燥させて、厳しい冬の冷え込みの中で染色することによって、美しく鮮やかな色が得られます。「色々(いろいろ)」に見られるような、多色相を組み合わせた「五ツ衣」は、あまり多くありませんが、春を待ち望むこの季節にふさわしい配色ではないでしょうか。
 

伝統を振り返る「心のゆとり」

さて今回は、「かさねの色目」の世界の一端をご紹介しました。伝統色とは、その時代を象徴する色のこと。日本だけでなく、世界各地にその土地ならでは、伝統色が今も静かに息づいています。今の流行を追いかけていくのは楽しいけれど、ときには伝統を振り返る「心のゆとり」も持っていたいですね。

 

※色はあくまで目安です。ブラウザやディスプレイによって、見え方が異なります。
※参考図書:『かさねの色目 平安の配色美』長崎盛輝著 『日本の色を染める』吉岡幸雄著

 

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