世界遺産とは

更新日:2011年07月01日

世界遺産の基礎知識

世界リストや世界遺産条約ってなんなんだ? 世界遺産の生い立ちから理念、登録のプロセスまで、その基礎を解説する。文化遺産、自然遺産、複合遺産、危険遺産、負の遺産、無形遺産などの違いも明らかに!

負の遺産、記憶の遺産

アウシュビッツ6号棟に掲げられた囚人たちの顔写真 ©牧哲雄

アウシュビッツ6号棟に掲げられた囚人たちの顔写真 ©牧哲雄

UNESCO憲章の抜粋を紹介しよう。

■UNESCO憲章前文より
戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。

UNESCOは、第二次世界大戦の反省を込めて、その過ちを二度と繰り返さないように1946年に創設された国連の専門機関だ。世界遺産条約には「負の遺産」、あるいは「記憶の遺産」と呼ばれる物件があるのも、その影響かもしれない。

負の遺産は世界遺産条約内で定義されているものではないので、厳密にどれがそれなのか決められているわけではない。ただ、悲劇を刻み込まれたモニュメントであると見なされた世界遺産がこう呼ばれている。典型的な負の遺産といわれるのが下記3件だ。
  • アウシュヴィッツ - ビルケナウ、ナチスドイツの強制絶滅収容所[1940 - 1945](ポーランド):ユダヤ人迫害の拠点のひとつ
  • 原爆ドーム(日本):世界で2例しかない核兵器実戦使用現場
  • ゴレ島(セネガル):奴隷貿易の中継点
「アウシュヴィッツ - ビルケナウ」の登録理由には、「人道に反して犯されたもっとも重要な罪を具体的に記録する例」であり、この収容所の保持が「世界平和の維持に貢献する」とある。3件はいずれも例外規定といわれる文化遺産登録基準(vi)のみが適用され、このように「記憶」が認定理由となった。

また、負の遺産としてよく紹介される物件には以下の例がある。
  • ソロヴェツキー諸島の文化と歴史遺産群(ロシア):スターリンの強制収容所のさきがけ
  • モスタル旧市街の古橋地区(ボスニア・ヘルツェゴビナ):内戦で破壊された地域
  • バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群(アフガニスタン):タリバンに破壊された仏教遺跡群
  • トリニダードとロス・インヘニオス渓谷(キューバ):プランテーションと奴隷貿易拠点
  • ポトシ市街(ボリビア):強制労働によって稼動した銀山
  • ザンジバルのストーンタウン(タンザニア):東アフリカの奴隷貿易拠点
  • ヴォルタ州、グレーター・アクラ州、セントラル州、ウェスタン州の城塞群(ガーナ):奴隷貿易の拠点
  • ロベン島(南アフリカ):大航海時代以来の監獄島
  • アプラヴァシ・ガート(モーリシャス):奴隷の代わりに収容された自由労働者の拠点
  • ビキニ環礁:アメリカが1946~1958年の間に67回行った核実験場

新しい世界遺産「無形遺産」

日本の無形遺産、能面

日本の無形遺産、能面

実は世界遺産の多くがヨーロッパの文化遺産で、途上国のものは少ない。途上国にとって遺産の保護・管理体制を整えるのが経済面・治安面から難しいうえに、石造建築のように形に残るような巨大文明が少なかったことが主な原因だろう。

同時に、世界的に生活が西欧化しているいま、形を持たない数多くの文化が消滅の危機に瀕している。このため、特に途上国において重要視されているのが無形遺産だ。

1998年にUNESCOは「人類の口承および無形遺産の傑作の宣言」を採択。2001年からは1年おきにすぐれた無形遺産を発表しており、2005年8月現在で90件が登録された。2003年には「無形文化遺産の保護に関する条約(無形遺産条約)」が採択され、2006年に発効。これをもって傑作宣言は役割を終え、宣言は2005年の第3回を最後に中止されている。

UNESCOは2009年9月の無形文化遺産委員会で、無形文化遺産の世界遺産リストである「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(代表リスト)」と、「緊急に保護する必要がある無形文化遺産の一覧表(危機リスト)」を作成し、代表リストに166件、危機リストに12件、計178件を掲載した。日本からは能楽、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎など16件が選出された。

リストは毎年更新される予定で、2010年11月時点で代表リストに213件、危機リストに16件、計229件(日本は18件)が登録されている。

世界遺産に参加しよう

世界遺産条約の目的について、条約前文では「いずれの国のものであることを問わず、類を見ないかけがえのない遺産を保護することが、世界の全国民にとって重要である」とし、「顕著な普遍的価値を有する文化遺産及び自然遺産の保護に参加することが、国際社会全体の任務」であるとしている。簡単にいえば、かけがえのない遺産を人類全体で守り、後世に伝えていこう、ということだ。

世界遺産はただ登録されて終わりというものではない。登録された世界遺産は、その国の政府が永久に保護していかなければならない。だから世界遺産登録はスタート地点にすぎない。

世界遺産登録によって遺跡の入場料が値上がったり、現地の人々の開発が制限されたり、いままで訪れることができた場所に立ち入れなくなったりすることも少なくない。でも、世界遺産を訪れてお金を払ったり、遺跡の偉大さを認めて世界中に伝えたり、開発を抑制したり、そうした世界中の人々の一致団結した行動によって世界遺産は保護される。

世界遺産の担い手は、全人類だ。世界中の人々がお互いの文化を認めて団結することにこそ意味がある。戦争を繰り返してきた人類が考え出したかつてないこのプロジェクトに、あなたも参加してみませんか?

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長谷川 大

フリーの編集者・ライター。出版社で編集者として勤務したのち退職、世界一周の旅に出る。これまでの訪問国…

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