掲載日: 2002年 12月 03日

中村雀右衛門さんが語る女方の鍛錬 「震えてカタカタ音がしました」

文章:五十川 晶子(All About「歌舞伎」旧ガイド)





『彦山権現誓助剣』(ひこさんごんげんちかいのすけだち)は国立劇場で12/3〜26まで。通常、大詰の「毛谷村(けやむら)」のみの上演が多いが、今回は珍しく通しでの上演だ。主な出演者は中村雀右衛門、中村梅玉、中村魁春、中村富十郎。
九州毛谷村に住む六助は、武勇すぐれる山樵。師匠の娘・お園と婚約しているが、その師匠が闇討ちに合い、仇討ちの旅に出る。お園は虚無僧の姿で六助をたずねて来、名乗りあって許婚と知れたときのお園の変わりようが見所のひとつ。お園は大きな臼を持ち上げたかと思うと、許婚にばったり出会い恥ずかしくて態度が変わる。そんなユニークで魅力的な女・お園を演じる中村雀右衛門(なかむらじゃくえもん・京屋)さんに話を聞いた。雀右衛門さんは11月の歌舞伎座で『本朝二十四孝』「十種香」で八重垣姫という大役を演じたばかり。『附け立ち(つけだち)』という稽古場始まったばかりの国立劇場の稽古場にて。

====
まずは11月の大役、八重垣姫は、なぜ「大役」と言われるのか。

「八重垣姫はね、亡くなった歌右衛門さんもおっしゃってましてね。『あなた、あれはね、もうほんっとに大変だから』って。私も何度もやっていろいろ教わっていることをなぞっていくのが精一杯です。身動きはしないし、しどころのある役でもございませんしね」と穏やかに話し始める雀右衛門さん。この11月歌舞伎座での舞台では、赤姫の衣裳の後姿、特にうなじから肩にかけて、濃厚で一種狂気ににも似た、勝頼への愛情が伝わってきたのを思い出す。
女方は型から始まって、型をとにかくとにかくなぞっていって、そのうちに型の中に『心』があることが見えてくる、そんな気がいたしますね」。
八重垣姫の勝頼への恋情には鬼気迫ったものすらある。雀右衛門さんもかつてそういう体験をお持ちなのか。
「そうですねえ。そりゃないことはないですよ」と微笑みながらも「でもねえ、体験したことなどよりも、たいてい芝居の方が”粒子が細かい”といいましょうか、もっともっとより深いものであることが多いような気がいたしますね。自分の体験をうまく芝居にし生かすようなことは、ほんとに名人でもならなければ」。歌舞伎の型をなぞっていくことの大切さ、難しいかを感じると語る。

「毛谷村」のお園といえば、八重垣姫と違い自分で行動する女。自分の感情をまっすぐ出してしまう女である。
「どうなんでしょうねえ。(役について)好き嫌いを言わないほうがいいとは思うのですが、私はあまり好きでないかもしれません。男の真似してるみたいな、ねえ。八重垣姫のほうがそりゃ好きですよ」。
お園はかわいくてたくましい。だが初めて演じたときの雀右衛門さんは・・・。
「いろんなお役の型を六代目歌右衛門さんに教わってきたのですが、このお園はね三代目の時蔵さんに教わりました。ご存知のとおり私は27歳で初めて女方になれ、ってことになって。着付けから声の出し方までなんにしろ初めてでね。三越歌舞伎で初めてお園をやるとき、相手の六助さんは十一代目の團十郎さん。良いも悪いもとにかく夢中でやるしかなくってね。虚無僧の姿で花道を出ると自分がカタカタ鳴っているんですよ。『おかしいな何が鳴ってるんだろう』と思ったら、あなた、かぶっている天蓋がね、自分が震えているものだからカタカタ鳴っていたのね。あがっていて、もう舞台で何をやったのか本当に覚えていませんでした」。

掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。