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タイ政治の基礎知識2006

クーデターを繰り返すタイの政治。そして超越的な国王の存在。軍と国王を支持する国民たち。タイの政治は不思議なことがいっぱいです。タイ政治の基礎知識2006年版です。

執筆者:辻 雅之

(2006.09.26)

突然クーデターが実行されて世界の注目を集めたタイ。国王に対する国民の絶大な信任、そしてたびたび起こされてきたクーデターの歴史。タイ政治の基礎知識、2006年度版です。

1ページ目 【タイ政治の歴史~現王朝建国から立憲革命】
2ページ目 【タイ政治の歴史~90年代に訪れたタイ政治の転換点】
3ページ目 【タイ政治の歴史~2006年クーデターの背景とタイ政治の特徴】

【タイ政治の歴史~現王朝建国から立憲革命】

タイ王室の誕生

タイの地図
大国に翻弄されながら、植民地化を回避することができたタイ。
タイ政治の歴史を建国までさかのぼってお話するのはなかなか難しく、歴史学の諸問題が発生してしまうのでここでは省略します。現在のタイ王室、ラタナコーシン朝が誕生するところからお話しましょう。

タイ地方は18世紀後半、隣国のビルマ(現在のミャンマー)による支配を受けた後、いくつかの地方政権によって分かれていました。これを短期間でターク・シン王が再統一しましたが、その非道ぶりから、チャクリがクーデターを起こし王を打倒します。

チャクリは1782年、今日のバンコクに都を作り、ラーマを名乗って即位しました。これが現在のラタナコーシン朝です。以後、タイの国王はラーマを名乗ります。現在のプミポン国王は「ラーマ9世」です。

その後、首都バンコクは大きく繁栄するようになりますが、一方ではイギリス・フランスによる進出の脅威を受けるようにもなります。4世モンクット王は、いちはやく王室の近代化を図り、タイの独立を守ろうとします。

タイ王室体制の確立

しかし、イギリスとフランスの脅威は減らず、19世紀後半、タイは多くの領土をフランスやイギリスに割譲することになってしまいました。

特にフランスは一時期タイに対する領土的野心を見せていましたが、イギリスは、タイを中立にし、イギリス・フランス両国のクッション地帯(緩衝地帯)として独立を保たせようとしていました。

このイギリスの政策により、大国の干渉を受けつつも、タイの独立というものが確定しました。こうして、東南アジア唯一植民地支配を受けなかった国として、タイの歴史は語られるようになるのです。

6世ワチラーウット王は「民族・仏教・国王」への忠誠を説いて、タイに絶対王政を確立しようとしました。国王は国家の元首として民族と仏教を守り、これに対して国民は国王に忠誠を誓うというものです。

この原理=ラックタイ(「タイの礎」)は、後にもタイ支配の原則として利用され、また今日においても大きな影響力を持っているものとされています。

タイ憲法制定、立憲国家へ

しかし、6世王の時代から共和制や民主制を求める動きが出始めていました。ク-デタ-未遂も起こっています。

絶対的権力を持っていた6世王が死去し、7世プラチャーティポック王が即位すると、王室に対する批判が噴出してきました。

王は漸進的な民主化を考えますが、欧米帰りの将校らと文官らを中心とする「人民党」が1932年、クーデターを決行。国王は流血の自体を避けるため、人民党の要求に応じ、ここに憲法が制定されたのです。

とはいえ、できた国会も任命制で、事実上は人民党の一党支配でした。そして人民党内部の争いが表面化し、人民党陸軍派は1933年クーデターにより実権を握ります。これを不服として国王は退位してしまいました。

サリット体制、タイ式民主主義

タイ政治の「原理」
タイ政治の「原理」。民族と宗教の守護者である国王に国民は忠誠を誓うべきという考え方。
1938年、陸軍派のビブーンが首相になります。1944年にいったん退陣するものの、陸軍による1947年クーデターによりビブーンは復帰します。

このビブーン体制のなかで台頭した軍人がサリットでした。サリットはビブーン体制の求心力が弱まっていくなか、1957年クーデターにより実権を握り、さらに1958年クーデターにより独裁を確定的にします。

サリットは「タイ式民主主義」を確立していきます。つまり上からの民主主義、という形をとったいわゆる「開発独裁」政治体制(民主化よりも経済発展と開発を重視する政治体制)です。

次のページではサリット時代からのタイ現代政治の歴史をみていくことにします。
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