石川:
恐らく同年代だと思うんですが…。
小川:
何年ですか?
石川:
54年です。
小川:
1歳、お兄さんですね。私は55年生まれですから。
石川:
最初っからクルマ専門というわけじゃなかったとか。
小川:
最初に撮ったクルマの広告写真が賞をとったら、そのまま専門家だと言われて今日まできてしまいました。
石川:
建築もお好きなんですって?
小川:
大好きですよ。
石川:
そう聞いていたので、今日はプジョー207をどんな場所で撮るんだろうと、とても興味深かったんですが。
小川:
都会の早朝ですよね。私自身、街を眺めるのが好きだから、歩行者の視点で撮りたいといつも思っています。
石川:
でも、クルマの写真でよくあるのは景色がきれいなところ…。
小川:
こういうことだと思います。背景が美しい自然では、クルマそのものから何かエモーショナルなものを感じるのが難しい。自動車には、環境や経済、政治、素材といった人間社会の様々が内包されていると思うんです。そんな背後に潜むものを、写真で映し出してみたい。
石川:
都市は建物の集合体でもありますね。建物も人間が作り出した。
小川:
クルマも同じです。だから街こそ、クルマが一番よく似合う場所だと思うんです。簡単に撮ってるようにみえますけど、けっこう考え込んでやっているんですよ(笑)。
石川:
分かります、分かります。
小川:
クルマはもちろん、建物、看板、路面のペイントまで、目に触れるすべてのものを組み合わせてトリミング、切り取るわけです。
石川:
都市における空間を切り取って写真にする。そのときに、自動車は切っても切れない関係というわけですね、小川さんにとっては。
小川:
そういうことだと思います。
石川:
それにしても、プジョー207というのは、以前の206から相当に表情が変わっていますね。都市も同じだなあ、と。
小川:
東京も随分変わりましたよね。
石川:
建物やインテリアのデザインの世界も良く似ていますよ。ボクは家具のデザイン、特に椅子が好きなんですが、やっぱり時代感をよく反映していますから。
小川:
今日撮った写真のテーマは何かと聞かれれば、それは07年8月某日何時、ってことでしかありません。写真にはそれほどの芸術性があるとは思ってなくて、ある時代の一瞬を、二度と訪れない瞬間を、私が切り取るという、私にしかできない作業だと。そういった時代感、個人感を、都市のクルマという切り取られた空間を通じて、いかにあとに残せるか。何年かあとに、「この背景とこのクルマはあの頃だよな」と思ってもらえる。そういうことなんだと思います。
石川:
都市においたプジョー207。今回はどこがポイントになりましたか?
小川:
やっぱりフロントマスクがデザインの中心にみえますよね。レンズを向けると自然に顔に行きつく(笑)。さらに言えば、ヘッドライトでしょうか。
石川:
あのあたりは正にテクノロジーの進化と言えるでしょうね。素材や技術でいろんな顔、ヘッドライトが造れるようになってきたように専門外でも判ります。
小川:
プジョー207に関して言えば、アールヌーボーだと思っています。はっきりと装飾傾向にありますから。
石川:
前のと比べれば、けっこう男性的ではっきりした顔付きになった。
小川:
とても強いですよね。真横からみてみると、パッケージングも良く出来ていて、きれいなシルエットなんだけど、顔つきで相当違うイメージにみえる。このクラスというのは、自動車に乗る人の支持が圧倒的に強いセグメントです。好き嫌いはともかく、このように明確にデザインされた方が視覚的にも楽しいし、存在感があっていいと思いますね。
石川:
結局、プロダクトの世界はいずこも同じようなもの、同じような機能になるわけじゃないですか。どこみてもだいたい同じようなときに、個性を出すって大変なことだし、大事なことです。
小川:
デザインにおけるふんぎりがあるんですよね。フランス車は特にそう。
石川:
僕が興味をもったのは、実は専門でもあるインテリアだったんですけど、けっこうすっきりとまとまっている印象ですよね。前の206の方が凝っていたようにも思う。207には、エッジの効かせ方、陰影のつき方、レザーの色合いやぬめっとした感覚、そしてメーター周りのデザインなど、僕は甲冑のような雰囲気を感じたのですが。
小川:
インテリアデザイナーの中にある、潜在的なものがおそらく具現化したということなんじゃないかな。たぶんヨーロッパ人としての。そうは思っていなくても、そう見えるカタチで出てきた、とか。
石川:
重厚さを感じるんですよ、とても。特に朝方の陰影がついたインテリアを見てると、そう思う。フロントマスクといい、インテリアといい、非常に男っぽいな、と。違うカラーコンビネーションを選べば、違う印象もあるでしょうけどね。
小川:
そうですね、色によって相当変わるのは確かですよ。マテリアルとかによっても。
石川:
そういえば、カーボンとか、いろんな素材が見えますね。
小川:
最近の傾向だと思います。金属を使ったりするのもそう。最近の傾向といえば、大きなガラスルーフ(Cieloに装備されるパノラミック・ガラスルーフのこと)も流行りの装備ですが、なかなか気持ちいいと思いません?
石川:
ルーフ全体がガラスだなんて、開放感ありますねえ。自然光を気持ちよく採りいれる工夫なんて、実にフランスらしい。